トカゲ

 「トカゲ」はネコである。飼い猫ではないようだ。白に縞模様の斑が入っていて比較的若くスレンダーだ。どうやら♀だったらしく、最近子供を3匹産み、我が家の北側にある隣家を日中、訪れるようになった。
 去年の夏、まだ3等身だったルーシーを連れて近所を散歩していた頃、初めてトカゲに出会った。通りを歩いていると、玄関先で水やりをしておられた奥さんが、手を止めてルーシーに近寄り可愛がってくださった。その側をトカゲが警戒しながら行き過ぎたのだ。「あ、トカゲだ」と奥さん。視線の方向には細身のネコしかいない。奥さんは、(あ)の不思議そうな表情を認められ、笑いながら「この間、うちの庭でトカゲ食べてたから」と仰った。犬でもネコでも自分の力だけで生きていくのは大変なのねぇ。
 初めはネコの姿を見るや凍り付いていたルーシーも、今ではネコの姿を見ると。追いかけるようになった。追いかけても逃げられるのは分かっているのに、しょうがないやつだ。逃げられても笑っているところを見ると、捕まえることよりも、追いかけることに意義があるらしい。つくづく非生産的なヤツだ。家の中にいて(あ)が「あ、ニャンコの声がする」と言うと、ルーシーは「え、どこ、どこ、どこ?」とキョロキョロする。
 厳寒の時期を乗り切り、今ではトカゲもお母さんになった。我が家の近所は非常に静かなので、トカゲも子育てには理想的な環境と判断したのだろう。子供は3匹で、まだ両手に乗るような小さな毛玉ちゃんである。(あ)が裏口を出入りしたり、駐車場のあたりを歩くと、柵の向こう側で慌てた毛玉が走っていく。隣家の方が地面が高いので、視線が合うことも多い。トイレに入ると、窓の向こうから、こちらを見つめるネコの視線を感じることもある。一体、お隣で何をしているのかを覗きに行ったら、母親に「シャー!」と威嚇されてしまった。・・・失礼しました。
 自分だけでも野良で生きていくのは大変だと思う。ましてや動き回る子供3匹の世話となれば、おちおち昼寝もできないだろう。では、そんな厳しい環境の中で、どうしてトカゲは生きてこられたのか?おそらく、どこかでエサをもらっていると思うのだ。人間の出すゴミを漁るだけでは、週2日しか食事にありつけない。誰か自分ではきちんと飼うことをせずに、エサだけを与えている人がいるのではないか?
 子持ちのトカゲにエサをやることは、情け深い行為のように見える。しかし、それは無責任だし逆に無慈悲なことではないだろうか?一時的に情けをかけることで、避妊をしていない野良ネコが子供を産み増え続けている。チラとしか見ていないが、トカゲの子供の一匹は目に病気があるようだ。野良ネコの間では猫エイズの感染率が高くなっていると聞く。病気を持って生まれてくる子を増やして、どこが慈悲深いと言えるのだろう?ネコばかりではない。犬だってそうだ。どんな理由があるのか知らないが、人間の都合で捨てたり可愛がったりするのは、命をもてあそぶ行為に等しい。
 エサを与えるのではなく、家族として飼って欲しい。飼えないけれど、その子のために何かしてやりたいと思うなら、他にやってあげられることはあるはずだ。無責任に関わらないで欲しい。
 (あ)は、まだまだ新米でズボラな飼い主だし、ルーシーが幸せかどうかには全く自信がない。それでもルーシーを飼っているからこそ、強く感じることもある。