ケダモノだもの

 ルーシーを動物病院に連れて行く。シャンプーをしたのでフロントラインが必要だったのと、目と後ろ足を診てもらうためだ。先生によれば、目やには問題ないが、白目が少し赤いので目薬をもらう。足の方は、レントゲンをしないと詳しいことは分からないが、触診では問題なさそうだとのことだった。
 前回のレントゲン以来、ルーシーは病院が怖くなった。病院の中でも、(あ)のスキあらば逃げ出そうとする。診察台の上でも落ち着かず、ビクビクしていた。診察が長くなったので、ストレス発散のため、帰りにお世話になったペットショップに立ち寄る。(あ)は車の運転が大嫌いなので、ルーシーを車に乗せる時は、大抵行き先が病院だ。病院がキライとなれば、(あ)が運転する車に乗ろうとしないかもしれない。診察の間、ルーシーには我慢させていたので、寄り道はゴキゲン取りというところだ。
 帰宅して、ルーシーにゴロンの姿勢を取らせて足を拭く。(あ)が足を触った瞬間、予想どおりルーシーは歯を剥き、唸り始めた。早々に足拭きを終わらせ、ルーシーを抱き上げてサークルに入れようとしたら、ルーシーは突然(あ)の手首のあたりに噛みついた。
 今思えば、ルーシーは普段と違うことをされて、怖かったのだろうと思う。それでも(あ)には、今更噛まれたことが、信じられないのと同時に無性に腹が立った。ルーシーには、出来る限りイヤな思いはさせたくないし、反抗されるのもイヤだ。だから、あれこれと自分でも考えて、先生や他のワンちゃんの飼い主さんたちからアドバイスをいただいている。自分で苦労して考えた方法も失敗することが多く、挙げ句の果てには「やり方が古い」だの「そのまま続けていたら性格が歪む」だの言われる。いろいろ問題があったけどクリアなんかしてない!次々新しい問題が出てくるから、後回しにしているうちに、(あ)の頭の中で問題の重大性が下がってきているだけだ。長年ボーダーが欲しいとは思っていたけれど、コイツを飼ったことが間違いだったのか?土曜日に教室からの帰り道で、リードを付けたままルーシーをクレートに入れたら、走行中にリードのプラスチック部品を噛みちぎられた。このリードは、ルイちゃんのお父さんからいただいたもので、重宝していたし大切にしていたのに。もう許せん!!
 ついに(あ)は堪忍袋の緒が切れて、めちゃくちゃに怒った(あまりに腹が立って、どう自分が怒ったのかも、あまり覚えていない)。ルーシーも、尻尾を股の間に挟み、床でひっくり返ったまま凍りついている。怒られた後は、すぐにゴマスリに来るのだが、それすら忘れてしまっている。
 生来短気な(あ)は、ルーシーに対して腹が立つ度に「ケダモノだもの」と思い自制してきた。相手は人間ではない。ケダモノだから、こっちの都合や考えなどは全く知る由もないし、理性で動くこともない。しかし、それでも良い加減、慣れるか、あきらめるかしても良いんじゃないの?なんで毎日朝夕2回も歯を剥かれ、唸られないといけないの?つい先日、N先生には「ルーシーは、うまくいっている方だよ。」と言ってもらったのに、何なのよ!
 所詮、ケダモノにはこちらの誠意は伝わらないのかな。そう考えると情けなくて、しばらく顔も見たくない。