女心とシツケ教室

 土曜日のシツケ教室でU先生に言われたことに、(あ)は未だ引っかかっている。ルーシーは精神面の成長が遅れているというのだ。
 ルーシーは生後4ヶ月半から、この教室に通っており、最初に担当していただいたのがU先生だった。ここ半年はN先生に見ていただいているけれど、U先生には子犬の頃から可愛がっていただいていたおかげで、ルーシーは時折先生の姿を見かけると今でも大興奮する。鼻を鳴らし、しつこいほど飛びついて甘える。今では体だけは大きくなったけれど、こういう時のルーシーは完全に子犬に戻っている。
 前回のシツケ教室はN先生が出張のため、U先生が代講された。半年ぶりにゆっくりとルーシーをご覧になって、U先生は少し驚かれたようだ。「ルーちゃんは、自己主張するようになりましたね。」
 授業中、習ったことを各自練習するためノーリードにすることがある。ルーシーは、こういう時を狙ってU先生の元に行き甘えようとしたり、他のワンちゃんにちょっかいを出そうとしたり。リードを外してもらったら自由に遊べると勘違いしているのだ。そこで(た)がカラーを捕まえてリードを装着しようとしたら、ルーシーは鼻面に皺を寄せて唸り手を噛んだ。U先生は「ルーちゃんも、そんな表情をするんだ」と目を丸くされていた。
 先生によれば、自己主張は生後7、8ヶ月頃から始まり、早い子なら一歳半くらいで収まってくるものらしい。相手が(あ)の場合、ルーシーは鼻面に皺を寄せ歯を剥き唸るけれど、噛むことはしない。(あ)が剥いた前歯に手を当てて「良いよ、噛みなさい。その代わり、噛んだら言うことを聞くんだよ」と言うと、ルーシーは歯を剥いたまま舌を出して手を舐める(結構器用)。
 「精神面の成長が遅れているのは、未だ他のワンちゃんと自由に遊ばせていることが原因でしょうか?」と訊くと「なんとも言えない」との回答。「季節的なものもあるしねぇ。」「でもルーちゃん、女の子らしくなってきたよ」
 女の子というのは、人間も他の動物も同じで、男の子よりも若干複雑らしい。男の子は比較的単純に喜び、単純に怒り、怒られたら単純に反省するのだが、女の子は相手をバカにしたような、素直でないスカした態度を取ることが多いそうだ。だから、先生が仰った「女の子らしくなってきた」というのは、良い意味ではなさそう。
確かに最近のルーシーの様子を見ると、極端になってきたように思う。昔から可愛がって下さる人にはトコトン甘える。リードを引っ張って立ち上がり首が絞まろうが、お構いなしだ。こういう時はお座りをさせても、すぐに立ち上がってしまう。じっとしていられないらしい。その一方で知らない物や人に対しては、興味を持つよりも前に警戒するようになった。また嫌いな物はトコトン嫌いで、好きな物や人には魂さえ売ってしまいそうな勢いで近づく。そして「どうでも良いよ」と態度を示すことが減ってきたように思う。態度から察するに、ルーシーの感情の振れ幅が非常に大きくなってきているようだ。これが女のサガってことだろうか?
 (あ)は、このままクラス参加を続けるべきか悩んでいる。その理由は、現在のクラスでルーシーが他のワンちゃんの足を引っ張ってばかりだからということもあるが、クラスで高度な技を覚えるよりも前に、やっておかないといけないことがある気がするからだ。 精神面の成長が遅れているにしろ、いつかはルーシーも大人になって、他のワンちゃんとの追いかけっこや取っ組み合いに関心を示さなくなる日が来る。そうなった時には、ボール遊びやフリスビーなど、飼い主との遊びでエネルギーを消費し、筋力や体力を維持しなければならない。単純なボール遊びすらできないようでは、健康管理の面でも問題だ。そうなる前に、遊びのオプションを広げておく必要がある。そのためにはグループレッスンを続けるよりは、プライベートで飼い主との遊びを覚えるべきではないだろうか?そして飼い主に対する服従姿勢が良くなれば、言うことはない。
 だからといってU先生に来てもらった場合には、褒められたい一心でルーシーは猫をかぶってしまうだろう。それでは無意味なのだ。(あ)個人がボンヤリと考えているところでは、今まで担当してもらったことのないK先生にプライベートレッスンを短期間お願いしようかと考えている。ただしK先生も非常に忙しいらしい。実はK先生は、このシツケ教室にお手伝いに来ておられるだけで、教室の正規のスタッフではない。またK先生もご自身でプライベートレッスンをされているが、担当のワンちゃんを長期間、継続的に面倒を見られているそうだ。
 普段のルーシーの姿を見てもらうためには、一回だけでも、こちらの散歩の時間にスケジュールを合わせていただかなければならない。そして成長の度合いによっては継続的に担当していただくことになるのかな?まだまだ具体的には考えられないけれど、来週N先生に相談して決めたいと思っている。