ラージサークル

 シツケ教室で、ドッグダンスの技を少しずつ習い始め、曲目も決まって(あ)はふと考えた。今まで習った技は、ルーシーが自分の側にいるものばかりだ。
 「できれば遠隔技を入れたい」とA先生にワガママを言い、ラージサークルを教えて頂くことになった。ラージサークルとはハンドラーを中心として、円を描いて走る技だ。
 特にラージサークルを希望していた訳ではないが、今のプログラムに遠隔技−−犬がハンドラーから離れたところで動作する技−−を入れたくなってしまった。(あ)にとって、ラージサークルが遠隔技の中で一番簡単そうに見えた。ところが、先生曰く「見た目は犬が単に飼い主の周囲を走っているだけのようですが、(遠隔技としては)一番難しいです。」とのこと。先生としては、この技を今の段階で教えるつもりはなかったのだろうが、「ラージサークルを覚えたら、技の幅が広がりますから」と了承してくださった。
 実際にやってみて、先生の仰ったことがよく理解できた。
 まずは右回りのラージサークルを教えてもらう。まずはルーシーを座らせ(今回はマットを使った)、正面に一つだけコーンを置き、おやつを見せびらかせながらコーンの側に置く。まずは「ゴー」のコマンドで、ルーシーに円の中心から正面に走らせることを覚えさせる。次にルーシーがスタートする場所を円の中心として、右半円の円弧に沿ってコーンを複数配置。ルーシーに見せびらかしながら、一つずつのコーンにおやつを置く。「ゴー」のコマンドでルーシーを正面に走らせ、そこから次に「ライト」のコマンドで右隣のコーンに移動させる。円弧に沿って、コーンの外側を次々に移動させ右に動くことが「ライト」だと覚えさせる。始めは全てのコーンにおやつを置くが、練習を進める間に、一つおきのコーンにおやつを置くようにしていく。ハンドラーは円の中心にいて、指示を出すのみだ。犬が間違ったところに移動した場合にのみ、犬に近づき注意しなければならない。
 犬が正しい位置に移動できたら−−というより、正しい位置に行こうとした瞬間に−−クリッカーを鳴らす。久しぶりにクリッカーを使ったのだが、やはり苦手だ。ついついクリッカーを鳴らす前に「グッド」と言ってしまう。無意識に「グッド」と言ってしまった自分に慌てると、コマンドが遅れ、次のクリッカーも遅れるという悪循環。ガックシである。
 右半円ができたら左半円の円弧部分にもコーンを置き、円を右回りに一周することを覚えさせる。ところが先生の警告どおり、ある時点からルーシーは右に進まなくなった。正面はOKでも次に左に進もうとしたり、正面に進まず自分の横のコーンへ行こうとしたり。「どんなワンちゃんも、必ず一回はあるんですよ」と先生。「この練習を重ねていくと、今度は円じゃなくて四角を描いて進もうとしたりします。」
 ルーシーの側からしたら、360度の位置に必ずおやつはあるのだ。始めは「どこから取っても良いじゃん。どうせ全部もらえるんでしょ?」と思っていたはずだ。ところが、当然ながら(あ)の指示に従って動かなければ「ノー」と言われ怒られる。頭を下げて、おやつの姿ばかり探していたルーシーには、(あ)の「ライト」というコマンドも、ハンドシグナルも頭に入っていなかった。そもそも、こちらの指示に従っているという意識はなかったのではないだろうか?
 明確に自分が何をやったら、おやつがもらえるのかが理解できず、ルーシーは自分が下手に動かない方が良いと思ったようだ。練習の途中から、円の中心に座ったまま、どのコーンにも行こうとしなくなった。(お腹がある程度膨れたせいもあるだろうけど)ルーシーの頭の中は、クエスチョンマークだらけだったろうと思う。
 ラージサークルを教える上で、もう一つ問題がある。練習ができないのだ。我が家の庭でも手狭である。う〜〜ん、困った。