サンタちゃん

 「犬食い」と言われるように、犬には下品なイメージがあるようだ。ルーシーなぞは、その最たる例であり、フードだろうが希少なおやつだろうが、一瞬で飲み込んでしまう。「ちょっとは、味わって食べなよ」と言いきかせるが、本人は丸飲みして「もうないの?」と、こちらを見ている。ひどい時は、他のワンちゃんの飼い主さんのカバンの中に鼻先を突っ込んで、「何か食べる物はないかな」と探っているし、公園の芝生の上に落ちている木の皮まで食べていることがある。こちらは、他の人に「飼い主に似て」とか「飼い主が食事を与えていないんじゃないか」などと思われないかと心配になる。
 サンタちゃんはプードルの成犬で、ボール遊びが大好き。毎日、お母さんがサンタちゃんを公園で遊ばせている姿を目にする。家族の一員として、大切に育てられているのだろう。そのことは、サンタちゃんが、お母さんを見る目でよく分かる。  
 ルーシーは、サンタちゃんのお母さんに、いつもおやつをもらっている。公園に到着すると、端の方でボール遊びをしているお母さんをめざとく見つけては、体を地面にすりつけるようにリードを引っ張って、お母さんのところへ行こうとする。「ルーシー」と声をかけられると、リードを着用したまま立ち上がってクンクン鳴き、そして地面に寝転がってお腹を見せて甘える。我が犬ながら現金な奴である。
 もらってばかりでは申し訳ないから、手持ちのフードをサンタちゃんにあげることにした。手の平にフードを置き、お座りをしたサンタちゃんの目の前に出した。ルーシーなら、フードを出した途端にお座りを止めて、立ち上がり、フードを食べてしまう。ひどい時は、こちらの手に歯が当たって痛い。しかし、サンタちゃんは違う。サンタちゃんは座った姿勢のままで、2、3秒手のひらに乗せられた物体を見つめ、おもむろに匂いを嗅いで、舌でペロっと食べた。公家のごとき、上品さである。
 そんなサンタちゃんも、獣医さんからダイエット命令が出て、お母さんは苦労して痩せさせたそうだ。ある日、ご自身の食事の直前に宅配便が来たので、受け取りに玄関先に出たところ、食卓にあったお寿司が、酢飯になっていたそうだ。椅子を食卓近くに置いていたので、サンタちゃんは椅子に上って、お寿司のネタだけを食べてしまったらしい。イクラ穴子、錦糸卵が乗っていたはずなのに、錦糸卵は1本も残っていなかったそうだ。
 ダイエット中は「野菜をつけたりして、食事の量は増やしてやっていたんだけどねぇ。」と、お母さん。メグちゃんのお母さんは「サンタ、えらい贅沢な食事やなぁ。そら、怒られたって食べたいわなぁ。」
 サンタちゃんのように賢くて上品なワンちゃんでも、食欲には負けることがある。ルーシーの「犬食い」もしょうがないか。