避妊手術

 ルーシーに避妊手術を受けさせた。掛かり付けの病院では、午後の休診時間に手術をするというので、朝は(た)に通常以上の時間をかけて散歩させてもらい、朝食後にシャワーをした。シャワーの後、例のごとく暴れまくるルーシーを見ていると、この小さな体に開腹手術を受けさせるのは、可哀想でたまらない気持ちになった。
 避妊手術を最初の発情期前に受けさせれば、生殖器系の病気が発生する率は大幅に減り、寿命が1年半から3年延びるという。理屈としては理解しているし、これが最善の選択だとも思う。しかし、同じ女性として考えると、受け入れがたい気持ちになることは否めない。
 病院のスタッフに預ける時、ルーシーは上目遣いで私をチラリと見たが、その後は視線を合わせなかった。自分が悪いことをしたので、罰を与えられると思ったのか、体を小さくしていた。おまえが悪い訳じゃないんだよ。ごめんね、ルーシー。
 夕方、手術を終えたルーシーを引き取りに行くと、彼女は目をショボショボさせて、非常に眠たそうに見えた。麻酔は切れているものの、まだボーっとした状態。腹部は毛が剃られ、ドレッシングは施されておらず、5センチ弱の傷が露出している。小さいワイヤで数カ所閉じられていて、見るからに痛々しい。エリザベス・カラーを2,500円で購入しルーシーに装着させたが、自分で外してしまう。
 家に帰った後、一旦サークルに入れた。水をやっても口を付けようとしない。腹部が気になるのか、傷口も毛を剃られた場所も舐めようとする。Tシャツを着せて、なるべく舐めさせないように努める。痛み止めを与えたというが、あまり効いていないようだ。目は充血し今にも瞼が閉じてしまいそうなのに、体を横たえたり、じっと座ることもできないようだ。ぐるぐると歩いては、横になり目を閉じる。しかし、すぐに目を開けて、また歩く。眠れないイライラが募ってか、鼻を鳴らしたり、低くうなるような声を出す。(あ)がサークルの中に入ってルーシーを抱っこすると、少し安心したのか目をつぶった。こちらがホッとタメイキをついたら、5分も経たないうちに、起きあがり、(あ)の背中に頭を預けて、立った姿勢のまま寝ようとする。また、周囲の小さな物音に反応して、目を開ける。家の外で鳴く猫の声、石焼き芋屋さんの声、ドアの開け閉め、ビニール袋をガサガサさせる音、全てに過敏になっている。
 クレートの方が安心できるかもと思い、サークルから移すことにした。クレートを準備する間に、小をさせる。トイレシーツに向かって歩く、足下がおぼつかない。点滴のせいか小は大量。クレートの中で患部を舐めないように、Tシャツの上から手ぬぐいを兵児帯のように結ぶ。
 獣医さんの話では「犬は痛みに強い」ということだった。それでも、痛いのは人間でも犬でも変わらない。早く痛みが去ってくれれば良いのに。

朝、散歩に出発 シャンプーの後で