甘えるということ

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 ルーシーは、他の人に対するのと違って(あ)には甘えようとしない。それどころか怖がっているようだ。「抱いてくれ」と要求したり、オモチャを持ってきて「遊んで」と誘うことは少ない。首や耳の後ろを掻いて欲しい時でも、座っている(あ)の膝小僧あたりに、黙って頭をつけるだけだ。この時でも、頭を下げているので、ルーシーは(あ)と視線を合わせていない。
 同じボーダーコリーでも、アンディ君とお母さんとの関係とは全く違う。アンディ君は常にお母さんの顔を見ている。お母さんが別の方向を見ていたとしても(というか見ていなくても、アンディ君が何をしているか全て分かっておられる)、じっと座って、彼女の視線が自分に戻ってくるのを待っている。こういう飼い主さんとワンちゃんの関係を見る度、(あ)は感動を通り越して、ワンちゃんのいじらしい態度に涙が出そうになる。
 確かに(あ)のルーシーに対する態度は、厳しかったと思う。小さな子供で我が家にやってきたのに、甘やかすどころか、要求ばかりしていたのかもしれない。叱らずに褒めることを心がけてきたつもりだが、頭を撫でられたり、体に触れられても、ルーシーは嬉しそうではなかった。また、ルーシー自身の性格が「怒られても、こたえない(懲りないというべきか)」ため、同じ失敗を繰り返す。結局(あ)は褒めるよりも、怒ったり注意する方が多くなった。そして、自分自身がガミガミババアになっているのがイヤだった。そうしているうちに、ルーシーは素直に甘えられなくなったのかもしれない。
 少しずつ、こちらが発する言葉を理解するようになり、ルーシーは、自分が褒められているのか怒られているのかは、理解できるようになった。しかし、その一方で(あ)に対して距離を置くようになった気がする。
 避妊手術を終えて家に閉じこもっている間に、ルーシーは、しきりと耳を後ろ足で掻くようになった。そして、その足を口の中に突っ込んでは吸う。エリザベス・カラーを外すと腹部を舐めようとする。注意すると、これは止めるのだが、今度は耳を足で掻き、足を口に入れて吸い始める。人間の子供は、欲求不満やトラウマがあると指を吸うが、ルーシーにもそういう心理的な原因があるのだろうか?そして、それは私のせいなのだろうか?
 狭いサークルの中で一緒に寝ていても、ルーシーは(あ)の足のあたりで小さくなっている。顔を近づけてくることも少ない。ワガママを言い吠えて何かを要求するのは、決まって(た)が家にいる時だ。もしかして、私はこの子を萎縮させてしまっているのだろうか?そう思ったら、なんだかルーシーが不憫になってきた。