ここ数ヶ月をかけて、失敗を繰り返しながら根気よく練習したおかげで、ルーシーは「呼び戻し」を80パーセント近くできるようになってきた。ところが、近くに気になるワンちゃんがいない等、条件が揃っていないと達成できないことが多く、100パーセントできる訳ではない。
 久しぶりに思う存分走らそうとF公園に行ったところ、いつもの遊び相手がいるにも関わらず、一緒に遊んでもらえなかったこと、公園への道のりでジェントル・リーダーを着用させられていたことが重なって、ルーシーはストレスがたまっていた。そのせいか、リードを離した瞬間に、あるワンちゃんに駆け寄って体当たりを食らわせた。このワンちゃんは、とても賢くて、ルーシーには全く興味がないのだが、ルーシーはボールを追いかけるワンちゃんを、さらに追いかけるのが好きだ。相手が報復をしないことを知っているルーシーは、八つ当たりをしたのだ。
 相手に体当たりを食らわせた瞬間、当然(あ)は「ルーシー、ノー!」と注意して、フードを使って呼び戻そうとした。ところがルーシーは戻ってこない。怒られると知っているからだ。これ以上しつこく、相手のワンちゃんに絡むことは許してはいけないと判断し、(あ)は芝生の広場を離れながら、ルーシーを呼んだが、この呼びかけは全く無視された。「ルーシー、バイバイ!」と声をかけながら、さらに離れても、ルーシーは途中まで追いかけて来るものの、(あ)のところまで帰ってこない。そして、すぐに芝生の広場に独りで戻ってしまう。
 「隠れたら良いわ」と、他の飼い主さん。「姿が見えなくなったら、不安になって追いかけてくるわよ」わざわざ協力していただいて、柱に隠れた(あ)に向かって、「ルーシーは、まだこっちを見てる」とか「遊びに行っちゃった」とか逐一報告して下さった。我ながら頼りない飼い主だなぁと、柱の陰で申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 アドバイスに従い、ルーシーから見えない場所で待っていたが、本人は一向に探しに来ない。それどころか他の飼い主さんに飛びついて、おやつをねだっていた。結局、リードを付けていない自分の飼い犬が他の人や犬に危害を与えたりしないか、心配になり、(あ)が根負けしてルーシーのところに戻った。
 多くの飼い主さんは「ここは知っている場所だし、知っている人ばかりだから、安心してしまっているのよ」と慰めてくれたが、(あ)には、そればかりが原因だとは、とても思えない。
 ここ半年あまり一体何をやってきたんだろうと、情けないやら空しいやら。なんだか無駄なエネルギーと時間を費やしてしまったなぁ。必死になっていた自分がバカみたいで、今日はこれ以上ルーシーの顔を見たくない。