前にも書いたが、散歩から帰宅して、ルーシーの足を拭くのは、なかなか大変な作業である。汚れを取る作業にも時間がかかる上に、何よりもルーシー自身が仰向けに抱っこされて、足を触られるのを嫌うからだ。
 (た)によれば、仰向けに抱っこした時に、ルーシーの頭を自分の脇のあたりに入れるようにすれば、唸ったり歯を剥いたりしないという。例えば人間でも、ケガをして医者に傷口を縫われるところは見たくない。それと同じで、ルーシーは、自分の足を他人が触っているところを見たくない、認めたくないということなのだろうか?
 いずれにしろ、これは根本的な解決ではないと、(あ)は常々考えていた。たとえイヤなことでも、飼い主の指示があれば、我慢することを覚えさせたい。それも自分自身で我慢することを選んで欲しいと思っていた。
 唸って歯を剥いて抗議はするものの、ルーシーは(あ)の手を噛むことはない。ひとしきり抗議をして、それでも聞いてもらえないとなると、足を拭かれながら、フテ寝なのか(あ)の腕の中で寝てしまう。時折オナラが出るが、緊張が緩んだ瞬間なのかも。
 (あ)は、ルーシーの足を拭くときに、さまざまなことをやってきた。声をかけてから抱く(いきなり抱き寄せない)。抱いた直後に足を触らない。抗議をしている間は、話さない。マズル・コントロールをする。ルーシーの胸に手を置いて、落ち着かせる。抱く前にフードを見せて、「『ウー』言わなかったらあげる」とルーシーに言い聞かせる。フードをあげてから抱く、うなり声をあげても、少しだったらフードを半分やって、静かになったら後の半分を与える、等々。しかし、これらの試みは、ことごとく失敗してきた。
 今日は、節分の残りの豆を用意して、ルーシーの前で言って聞かせた。「ルーシーが『ウー』言わなかったら、これをあげる。だけど『ウー』言ったら、お母さんがもらう。」
 始めはルーシーを立たせたまま、背中を拭く。もちろん抗議はしないので、ルーシーを褒めて豆を与える。声をかけて、ルーシーを抱こうとする。(あ)が手をお腹の下に入れた途端に、ルーシーは低い唸り声を上げた。それを見て、(あ)は豆を取って、自分の口に放り込み、食べた。
 これは、ルーシーには非常にショックだったようだ。なぜなら(あ)が豆を自分の口に放り込むところを目の前で見ていたし、ポリポリと豆を噛む音を聞いていたのに、それでも信じられない様子で「お母さん、本当に私の豆を食べたの?」と(あ)の口のあたりを嗅ごうとした。(あ)は「食べたよ」と言って、ルーシーに息を吹きかけた。ルーシーは驚きの表情を浮かべていたし、後ろ足が引けて、ヘッピリ腰になっていた。(口が臭かったのか?)
 もう一度、ルーシーに「『ウー』言わなかったら、ルーシーにあげる」と言い聞かせて、体を抱きかかえた。すると、ルーシーは唸り声を上げず、歯も剥かずに、おとなしく抱かれた。(あ)はルーシーを褒め、豆を与える。そして、足を一本ずつ拭く度に、褒めて豆を与えた。最後までルーシーは、おとなしくしていた。
 ルーシーは、今まで、自分の食べる物は人間が食べないと思いこんでいたようだ。だから、自分が我慢をしないために、もらえるはずのフードを口にできないばかりか、他の誰かに取られてしまうことを知り、愕然としたようだ。こればっかりは許せないらしく、すすんで我慢をしたようだ。
 まだ、節分の豆が残っているので、明日もやってみようと思う。妙な陽性強化だが、効果があるなら、それで良いではないか。