呼び戻し

 昨日の夕方は雨、そして今朝は排泄だけのための短時間の散歩だったため、ルーシーにはストレスが貯まっていたようだ。夕方、(あ)が遠回りルートでF公園に入ると、他のワンちゃんたちの姿を見たルーシーは、走り回りたくてリードを窒息寸前まで引っ張った。明日も夕方から雨らしいので、ルーシーを離してやると、芝生の広場を駆け上がり、大好きなアンディ・ママに甘えに行った。
 無駄な努力とは知りつつも、一縷の望みを持ってルーシーを呼び戻す。ルーシーは、全く聞く耳を持たない様子で、アンディ・ママに飛びついていた。
 「ルーシー、バイバイ」と叫びながら姿を隠す。それでも興奮状態のルーシーは、振り向こうとしない。垣根の向こう側で屈みながら同じセリフを何回か叫び、立ち止まる。全く反応なし。さらに歩いて、ピラミッドの後ろに隠れる。ルーシーは、ようやく(あ)の姿が見えないことに気が付いた。
 もう一度、ピラミッドの陰から「ルーシー、バイバイ」と叫ぶ。声を聞いたルーシーは、(あ)が隠れているところに察しがついたらしく、こちらに向かって駆けてきた。しかし(あ)はルーシーに背を向けて遠ざかるように、上の広場からさらに上部にある木立の中に入っていった。これが呼び戻しのコツだと聞いていたからだ。
 (あ)に駆け寄ってきたはずのルーシーは、なぜか(あ)を通り過ぎて、周囲の木々の間を全速力で駆け抜け、グルグルと何回も回って見せた。その後は、ガウガウ良いながら自分の尻尾を追いかけている。
 ルーシーには、先途から(あ)の声が聞こえていたらしい。それでもアンディ・ママや他の飼い主さんに甘えたい気持ちを抑えることはできない。(あ)の命令は無視したいけれど、置いて行かれるのはイヤだ。葛藤した結果、とりあえず(あ)に駆け寄ることにしたが、ここで我慢したためにストレスがたまって逆ギレし、(あ)を追い越して「走っちゃった」らしい。
 今回の呼び戻しは、成功とは言えない。例えば、他のワンちゃんと一戦交えそうになったり、拾い食いをしそうになったりした場合のように、自分の中にわき上がる興奮や周囲の誘惑に屈することなく、飼い主のコマンドに従ってこそ、呼び戻しをする意味があるからだ。
 ただし、だ。相手はルーシーである。今までの失敗の数々を考えたら、レベルが高度になってきて、少しずつ成功に近づいているような気もする。一歩とは言えないけど、半歩前進したと言ってよいのかも。
 褒めるべきか、無視するべきか?飼い主としては非常に複雑な心境である。