雨の日のルーシー

 夕方まで雨が降り、二人とも家の中で一日を過ごす。ルーシーには曜日の感覚まで備わっていないだろうが、(た)がスーツを着て慌ただしく玄関を出て行く姿を見ると「あ〜、お父さんは仕事かぁ。じゃあ、どこにも出かけられないなぁ。寝てよ」と、サークルの中でひっくり返っている。きき分けが良くなったのは歓迎するけれど、いきなり無気力な姿を見せつけられると、少々悲しくなる。
 かと言って、こちらは雨の中、車を出してルーシーを連れ回す気力もない。片づけないといけない仕事も家事もあるし、燃えるゴミの日だし。せめて(あ)がルーシーのためにしてあげられることがあるとすれば、散歩とおやつくらいなものか。という訳で、こちらが家事を片づけて遅い朝食(早い昼食)を食べたら、ルーシーにはグリーニーズをあげることにしている。
 グリーニーズは犬用のガムで、一見したところでは緑色のプラスチックの棒みたいだ。歯垢を取って、口臭を防ぐ効果もあると聞く。ルーシーは、渡されたグリーニーズをくわえて隅の方に行く。誰も盗らないのになぁ。ちょっと囓っては床に置き、しばらく眺めては囓る。本人はこれでも大事に食べているつもりらしいが、グリーニーズがなくなるまで10分とかからない。
 (あ)が仕事を始めると、ルーシーは昼寝の時間である。しかし、昼寝にも飽きて、あまりの退屈さに耐えられなくなると、サークルの中で鳴いて「かまって」とアピールする。それでも(あ)は来ない。すると「脱走」計画を実行する。
 サークルの柵の一部には、ドアが付いていて、ピン状の二つの金具を差し込んで鍵をかけられるようになっている。毎回このドアを開けてもらって出入りしているのだから、普通なら、こちらの金具を外そうとするはずだ。ところがルーシーは、これとは全く別の、床と柵をつなぐ留め金を外してしまう。おまえはゼンジー北京か?(我ながら、いささか古すぎたので訂正。プリンセス天功か?)
 ドアの金具より難しいはずの留め金を外したからといって、サークルの柵は開かない。だから脱走は必ず失敗する。それでも、このところ毎日せっせと留め金を外そうとする。一体、何がしたい訳?
 ルーシーよ、ヒマなら家事を手伝ってくれ。アンタの毛がカーペットについて掃除機じゃ取れないんだからね。コロコロの使い方でも覚えてちょうだい。