モウちゃんはビーグルの女の子。前にも書いたが、ルーシーとは月齢も近く幼なじみである。
 モウちゃんは、トリマー養成学校のワンちゃんなので、普段はそちらで生活している。ルーシーがF公園に行くようになった時期は、ちょうど学校が夏休みだったこともあって、飼い主のお姉さんは、モウちゃんを自宅で世話をされていた。その間は、ルーシーはモウちゃんに毎日遊んでもらっていたが、今ではなかなか会えない。このほど、飼い主のお姉さんは、トリマーの学校だけでなく大阪の学校にも通うことになり、大変忙しくなってしまったそうだ。学校では他のスタッフに食事と排泄の世話はしてもらえるものの、運動までは面倒を見てくれない。そのためにお姉さんは、一時モウちゃんを自宅に連れて帰ることにしたそうだ。
 久しぶりに会った幼なじみを見て、ルーシーは自分のフリスビーを放り出して突進して行った。ただし一番先に行ったのは、モウちゃんではなく、彼女を連れていたお母さんのところである。何度も飛びついて、お母さんに頭突きをくらわせていた。オイオイ、順番が違うでしょーが。それに、アンタは熱烈歓迎のつもりだろうけど、迷惑だっつーの。
 モウちゃんは随分と顔立ちや体格も大人になって、態度も堂々としている。背中の黒いパッチが大きくなったようだ。それでも(あ)のことは覚えていてくれて、挨拶に来てくれた。
 二匹は以前と同じように、芝生の広場で追いかけっこを始めた。モウちゃんのお母さんがボールを投げると、ルーシーがすかさず取りに行く。実は、ルーシーはボールには全く興味がない。モウちゃんがボールを盗られたことで興奮し、自分を追いかけるように、誘っているだけなのだ。ボールをくわえたまま、ある程度走ると、ボールを離す。すると、モウちゃんが今度はくわえて走り出す。こうしてボールをやり取りしながら、互いに追いかけたり、追いかけられたりを楽しんでいる。幼なじみ同士がつくり上げた、一定の遊びのルールがあるようだ。
 二匹は、幼犬に戻ったように取っ組み合いに夢中だったが、お母さんが呼ぶと、モウちゃんはまっしぐらに戻って来た。モウちゃんは体だけではなく頭の中も確実に成長して、大人になっている。ルーシーはと言えば、未練がましく腹這いになって、モウちゃんのボールをくわえている。上目遣いに「もう遊ばないの?」と訴えているようだ。
 ルーシー、いつまでもガキなのはアンタだけかもよ。もうちょっと大人になってよね。