ワンコの心理

 朝の散歩の帰り道に決まって通る家がある。庭は柵と駐車場を隔てて道路に面しているが、一段高くなっている。そこに晴れた日には、真っ白なワンちゃんがいる。体格は比較的小さい方だが、庭を守る責任感からか、ルーシーを見つけると必ず吠える。
 このワンちゃんのお母さんは、ルーシーを大変可愛がってくださる。車でお出かけになる際でも、ルーシーの姿を見かけると「おいで」と声をかけて、体を撫でて下さるのだ。ルーシーも後ろ足で立ち上がり、いい気になってお母さんに飛びついたり、口元を舐めたり甘え放題だ。一方、お母さんを取られたワンちゃんは、柵の向こう側からルーシーに向かって吠え続けている。ルーシーは、そんなことを一向に意に介さない。自分が居る道路に、このワンちゃんが直ぐには出てこられないことを知っているからだろう、ますます頭に乗って、お母さんに体をすりつけて甘えている。
 嫉妬のせいか、あちらのお母さんがおられない時に、ルーシーと(あ)が通りかかると、このワンちゃんに決まって吠えられるようになった。実はルーシーは吠える犬が苦手である。だからこの家が近くなると、急に立ち止まって、しばらく離れた場所から様子をうかがうようになった。(あ)に「ルーシー、大丈夫だから。お母さんがいるでしょ?」と説得されて、ようやく再び歩き始める。ところが、庭にワンちゃんの姿を見ると、態度が一変する。駐車場から、このワンちゃんに向かって吠え始めるのだ。
 (あ)が慌てて「ルーシー、リーブ!」と注意すると、ルーシーは、すぐに吠えるのを止めて、こちらの顔を見る。そして、ご褒美をもらって、ニカニカと笑いながら家路につく。
 今朝もルーシーは、この家の手前で一旦立ち止まり、「あの家の方向には、行きたくない」と訴えた。ところが(あ)がうながして、家の駐車場の前まで来ると、いきなりダッシュで駆け寄って、柵に向かって飛びつこうとした。ただし、相手のワンちゃんはいなかったけど。飛びつくマネまでしたのに、空振りだったルーシーは「あれぇ?」という顔をして、その次の瞬間「ま、いいや。ご褒美ちょうだい」と舌なめずりして(あ)の顔を見上げていた。
 一体、アンタは、あのワンちゃんが怖いの?それとも会えるのが嬉しいの?