ショック!

 久しぶりにルーシーに噛まれた。遠回りのルートでF公園に入り、お待ちかねの追いかけっこをさせたところ、ルーシーは特に今日は(あ)のコマンドをことごとく無視していた。雑草を食べているところに「リーブ」「アウト」と言っても、全く耳を貸さない。呼び戻しも全くダメだ。ルーシーは、まるで(あ)がその場にいないかのような素振りを見せた。
 他のワンちゃんの飼い主さんが、地面より高いところにビニール袋を置き、その中に何やらおやつを入れておられたらしい。ルーシーは、後ろ足で立ち上がり、ビニール袋の中に頭を突っ込んで物色し始めた。(あ)が「ルーシー、リーブ!」と言っても、知らん顔を決め込んで中身を漁っている。(あ)は、コマンドが効かないことを確認して、ルーシーに近づく。大体の場合、これだけで「あ、お母さんに怒られる」とルーシーは気がつき悪さを止めるのだが、今日は無視したまま続行した。(あ)が首の後ろをつかんで、袋から引き離したところ、ルーシーは歯を剥いて(あ)の手に歯を当てたのだ。
 一番ショックだったのは、ルーシーに歯を剥かれたり、手に歯を当てられたりということではない。一旦、手に歯を当てた後、ルーシーはもう一度、(あ)の手を本気で噛んだのだ。つまり確信犯の犯行である。
 これは放っておく訳にいかない。(あ)はルーシーを地面に仰向けにして、マズルを掴んで怒った。悲しくて涙が出そうだった。(あ)はルーシーに対して、徹底的に人を噛んではいけないことを教えてきた。(た)はルーシーに自分の手を噛ませて、遊んでやっていたらしく、今でも噛まれることはあるらしい。しかし、ルーシーは(あ)に歯を剥くことはあっても噛むことはなかったし、ルーシーが歯を剥いているところに、(あ)が手を差し出して「そんなに腹が立つなら噛みなさい」と言っても、実際に手に歯を当てることはなかったのだ。食欲に負けたとはいえ、あまりにこれはひどい
 怖がらせるだけではダメなので、叱った後に呼び戻してフードをあげようとしたが、ルーシーは怖がって近寄ってこない。それどころか、他のワンちゃんの飼い主さんのところへ行き、「お母さんに、あんなひどいことをされた〜」と訴えている。
 噛まれたショックのあまり忘れていたが、(あ)の右手から血が流れていた。ルーシーの体を離したところで、クーちゃんのお兄ちゃんがヨモギの葉を揉んで持ってきてくれた。側におられたおばあちゃんのアドバイスとはいえ、年齢に似合わない心遣いで驚いた。
 クーちゃんのお母さんが「クーも、昔は大変だったですよ」と、(あ)に同情して声をかけて下さった。訊けば、子供達に噛みついたこともあったらしい。(あ)が見る限り、クーちゃんは、お兄ちゃん二人と、とても仲良く遊んでいて、遊びの最中でも、お母さんの指示に従う。今では、全く想像もつかないが、クーちゃんがあまりに言うことをきかない時、お母さんは、自宅にあった馬用のムチを使ったこともあったそうだ。
 飼い主が教える指示の半分は、犬の安全や健康を守るためのものだ。だから、どんな時も、犬は飼い主の指示を優先し、守らなければならない。しかし、実際の生活の中では、本当に指示に従って欲しい時に、ルーシーはこれを無視したり、飼い主に反抗したりする。困ったもんだ。
 ルーシー、お母さんだって、おまえを叱らずに褒めて育てたいよ。頼むから、褒めさせてちょうだいよ。