こっちのボールが欲しい

 ルーシーは公園では、自分のではなく、他のワンちゃんのオモチャやボールを追いかけることが多い。自分以外のワンちゃんが持っているオモチャやボール、水飲み容器が魅力的に見えることは、多くのワンちゃんに共通することだ。これに関して、ルーシーがちょっと変わっているのは、他のワンちゃんからオモチャやボールを奪ったら、追いかけてもらえると思っている点だ。だから隅の方に移動してオモチャやボールを足下に置いたまま、じっと相手を待っている。しかし、取り上げられた方は、あまり気にしていないようだ。結局、ルーシーは相手にされず、独りぼっちにされている。
 「追いかけて欲しい」という気持ちが強すぎるのか、(あ)と遊ぶ時にも、ルーシーはボールを持ってこない。(あ)がボールを投げると、喜んで追いかける。しかし捕まえたボールを口にくわえて、その場に座り込んだり、「良いでしょ、このボール」とばかりに、(あ)に見せびらかしながら、側を通り過ぎたりする。次にボールを投げるのに、まずルーシーを捕まえないといけない。どっちが遊ばれてるのか、分からない。
 昨日は廊下という狭い空間で、2個のボールを使ってみた。まず、1個を投げてルーシーに追いかけさせる。やはりボールを捕らえても、こちらに持ってこない。そこで、ポケットからもう一つのボールを出す。ルーシーは離れたところでボールを足下に置き「アレ?」という顔で、こっちを見ている。
 「ルーシーは、そっちのボールがあるでしょ?お母さんは、こっちのボールで遊ぶから」(あ)は、手の中でボールをピーピー鳴らして見せる。「ボールちゃん、可愛いねぇ〜、良い子だねぇ〜」と声をかけ、ルーシーを無視して楽しそうな声を上げる。すると、ルーシーは(あ)の方にジリジリと近づいて来て、「それの方が良いな、ちょうだい」と伏せをする。
 「ダメだよ〜、ルーシーにはあっちのボールがあるでしょ?」と始めは拒否。すると、ルーシーは(あ)の手の中にあるボールがますます気になる。「しょうがないな〜。じゃ、良いよ」と言い、手元のボールを投げる。喜んで2つ目のボールを追いかけるルーシー。
 それを横目に、(あ)は1つ目のボールを手にして、楽しそうに遊んでいるフリをする。ルーシーは「アレ?」という顔。欲しがったボールは手に入ったのに、さっきまで遊んでいたボールの方が楽しそうだ。しまった!
 これを何回か繰り返した後で、ボールを一つに減らす。そしてルーシーが投げたボールに追いついたら、(あ)は盛大に褒めて「おいで」と誘う。すると意外と素直にボールを持って来るようになった。
 ようやく、ルーシーは少しずつ分かってきたようだ。ボール遊びは、人と遊んでいるから、楽しいのだということを。少しずつで良いから、覚えようね、ルーシー。