ラジオ体操第一

 運動会で参加した種目の中で、ルーシーが頑張ったのは「待て」である。1つは犬に「待て」の指示を与え、横で飼い主がラジオ体操をするというもの。犬に「お座り」または「伏せ」の姿勢をとらせ、音楽が終わるまで立ち上がらせない。
 やってみると、ラジオ体操は結構長い。犬の集中力が途切れそうなところで、後ろに体を反らせないといけない。犬の表情が見えないので、飼い主としては不安になる。また「そろそろ終わりかな?」と思う頃に、音楽のテンポが変わり、ジャンプしなくてはならない。あ〜、そうだ!久しぶりだったから忘れてた!ドスドス音をたてて、ジャンプするのは厳禁だ。音に敏感な子だったら、驚いてしまうから、つま先だけでチョコチョコとジャンプしないといけない。
 クラスメートでボーダーのバドちゃんは、普段の教室では非常にお利口さんで、ルーシーは足下にも及ばない。また、授業中も飼い主さんの顔をじっと見つめ、集中力が途切れることがない。ところが、知らないワンちゃんに会うと興奮してしまう。ラジオ体操では、ワンちゃんも静止状態でいるけれど、バドちゃんには、自分の周囲に知らない子がいることが分かっているのだ。飼い主の指示に従う上で、条件が厳しかっただろう。
 バドちゃんは、音楽のイントロが流れ、お父さんが「伸び」のため手を上に挙げた途端、立ち上がってしまった。アウトである。これはバドちゃんが悪いのではない。普段ターゲット・ハンドで指示を出していて、バドちゃんはこれを完璧に学習しているからだ。ターゲット・ハンドというのは、飼い主が指示を出す上で、言葉ではなく、手や指を使って指示をすることだ。手を挙げた途端、立ち上がってしまったのは、そのせいなのだ。
 一方、ルーシーは、音楽が終わるまで伏せていた。それはなぜか?
 この競技には(た)がルーシーと参加していたのだが、たまたま白線のすぐ後ろに陣取った。(あ)は、二人の姿をデジカメで撮影しようと白線の前に行ったのだ。すると(あ)の姿を見つけたルーシーは、(た)にお尻を向けて、ニカニカ笑いながら、こちらばかり見ている。(あ)が「ルーシー、お父さんの方を見なさい」と言いきかせている間に、音楽が始まってしまった。しょうがないから、(あ)が「伏せ!」と指示を出し、(た)が体操をしている間も「待てよ〜、待てよ〜、まだだよ〜」と指示を出していた。おまけに、写真に集中できないから、変なのが一枚だけしか撮れなかった。
 もしかして、これって「ズル」じゃないの?初めての参加ですから「作戦勝ち」ってことにしておいてください。