吠え癖

 アメリカでは、吠え癖のあるワンちゃんが出す騒音について、隣人が訴訟を起こすケースがある。そのため、飼い主が犬に服従訓練を受けさせたり、ペット・クリニックに相談したりすることは日常的である。
 ペット・クリニックでまず訊かれることは、「何に対して、その犬が吠えるか」ということだ。そして、飼い主に犬が吠える刺激を環境から排除することをアドバイスする。その上で、最も一般的な対策として、犬に服従訓練を受けさせるか、またはアボアストップのようにカラーに特別な機械が付いた物を犬に装着させて、吠える度にある程度のショックを与えて吠えてはいけないことを教えることを勧める。
 ショック療法が効かない犬もいる。ショックを与えられた瞬間はビクッとして、吠えるのを止めるけれど、すぐにまた吠え始める。基本的に、自分の意志で吠えるのを止める訳ではないから難しいのかもしれない。
 極端な吠え癖には、声帯の一部を切除する手術(debarking)を受けさせるそうだ。この手術を受けさせると、吠えても喉頭炎を起こしたような掠れ声になり、やがて犬は吠えるのを止めてしまうという。
 犬にとっては、吠えることもコミュニケーションの一部である。(あ)には、人間と生活するためとはいえ「そこまでしないといけないのかなぁ」とも「およそ人道的とはいえない行為だなぁ」とも思う。しかし訴訟となれば、そういう選択をして物理的に吠えなくさせるか、もしくは犬を手放すか、どちらかの選択しかないのかもしれない。
 先日、回覧板で「ペットの出す騒音に対する注意」が回ってきた。ペットの種類も、どこのペットなのかも書かれていなかったけれど、住民の苦情が自治会長に出されたようだ。これを読んで(あ)は「もしかしてルーシーのこと?」と、少しドキドキした。全く心当たりがないという訳ではないからだ。
 ルーシーが家の中で吠えるのは、(た)にかまって欲しい時くらいなものだ。家にいる人間が(あ)だけの場合、ルーシーが吠えることはない。ルーシーを観察してきて思うことは、飛び付きにしろ、吠えることにしろ、(あ)が教えたルールは、(あ)だけに対して守れば良いルールと思っているふしがある。誰に対しても守らないといけないルールなのだと、再度教えなくてはならない。それなのに(あ)に対しては「良い子」なので、一体どうやってルーシーの誤解を解いていったら良いのだろう?
 日本はアメリカほど訴訟は一般的でないにしろ、やはり隣人の生活権を侵すようでは、犬を飼う資格がないと言われるだろう。かといって声帯除去は絶対にしたくないから、できる限りの努力をしなくてはと考えている。