レッツ・ダンス!なのだ。1

 前期のシツケ教室が終盤を迎えた頃、不定期に行われるドッグ・ダンスの講習会の案内があった。中級クラスの内容が、フォークダンスの曲を使った簡単な徒手体操だったので、この時点で(あ)は少なくとも自分に適性がないことは自覚していた。だから案内を見ても、すぐに飛びつくことはなく、さらにN先生のお誘いにも「ちょっと考えますわ〜」と言葉を濁しゴマカして、忘れてもらおうともくろんでいた。
 ところが(た)は夏休みに入ると「ドッグ・ダンス、やったら?」としつこい。「そんなに言うなら自分がやったら?」と言うと「だって、ボクはフォークダンスやってないし」と言う。確かに、授業中に(た)がルーシーのリードを握ることは少ない。しかし(あ)が体験したものだって、音楽付きの徒手体操みたいなものだ。並以上の運動神経の持ち主なら、充分やっていける程度のもの。問題は(あ)の運動神経が並未満だった。それだけのことだ。
 それが分かっていながら今回の講習会に参加したのは、ルーシーが音楽と踊りが好きだからということ、それに(た)が少し不憫になったからだ。ルーシーの音楽好きは以前から知っていたけれど、驚いたことにステップは(あ)よりも正確に覚えている。リードするはずの(あ)は。N先生に「Iさんは、ルーシーにリードされてるよ〜」と笑われる始末である。そして(あ)がステップを踏んでいると、ルーシーはそれを見て大笑いしているらしい。(「らしい」というのは、こっちは自分のことで必死なので、ルーシーが静止状態の時、どんな表情なのかまで見ていられないから)加えて(た)は夏休み中は朝夕の散歩に加え、日中はルーシーを車に乗せて出かけていく。(あ)が「アンタ、夏休みの最初から飛ばしすぎやで。最後までもたへんよ」と言っても、(た)はルーシー・サービスを止めないため、案の定4日目を過ぎて腰痛になった。ま、そういう訳で全くもって意欲に欠ける飼い主は、シブシブながら「衝撃のデビュー」をすることとなった。
 ドッグダンスは短いプログラムで約3分、長いものでは6〜7分にもなる。たとえ3分でも、犬が飼い主に注目し続けるのは、至難の業だ。また、本当のドッグダンスではリードは使わない。中には一切、犬の体に触れないタイプのダンスもある。大会などで演技を披露するワンちゃんは、他のワンちゃんや周囲の雑音などに惑わされることなく、自分の飼い主だけを見つめ続けなければならない。ドッグダンスの得意なワンちゃんが、総じてアジリティや服従訓練にも優れているのも、うなづける。
 今回の講習会に参加したワンちゃんは全部で6匹。全員初めて出会うワンちゃんで、年齢は1才ちょっとから8才まで。小型犬が多い。ルーシー以外は、あまり他のワンちゃんに興味がないらしく、飼い主から離れて遊びたがるような子はいない。この講習会の講師は、シツケ教室の通常のスタッフではない。「厳密なドッグダンス競技というよりは、ドッグダンス同好会のノリで考えて下さい」と講師の先生。初心者クラスなので、課題曲はトトロのテーマ曲(「歩こう〜歩こう〜」ってヤツ)の1番。大体1分程度だ。
 私たちのすぐ横には、大好きなN先生がご自身のワンちゃんと講習会に参加され、犬種が大好きなラブだったこともあり、授業を通じてルーシーは落ち着きがなかった。とてもじゃないがドッグダンスどころではない様子。最初から失格だよ、これじゃ。