レッツ・ダンス!なのだ。2

 初心者とはいえ講習会に集まった他のワンちゃんたちは、ルーシーと格段に違うことがあった。集中力である。当日の朝、公園の沼に入ってシャンプーをされたルーシーは、体が必要以上に疲れて昼寝モード。その上、朝食が遅かったせいもあり、お腹がいっぱい。名前を呼んでも振り向こうとせず、フードやおやつを鼻先にチラつかせて、こちらに集中させるのが非常に難しかった。最初から大失敗である。
 ドッグ・ダンスには、集中力が何よりも重要だ。それも、高いレベルの集中力を長時間維持させなければならない。ハンドラーはプログラム中、ハンド・シグナルは使わず、ほぼ声だけで指示を与える。自分も犬のパートナーとして踊るからだ。プログラム中は、音楽とハンドラーの指示そして周囲の雑音や歓声が、否応なしに犬の耳に入ってくる。犬はダンスに集中し、ダンスに必要な情報だけを取捨選択することになる訳で、これだけでも犬の本能や特性とは全く反対の要求なのだ。
 だから、特に初めてダンスをするワンちゃんには、ダンスがイヤにならないように、モチベーションの維持に気を遣う必要がある。ダンスがイヤになって、音楽が流れただけで逃げていく子もいるそうだ。指示を与えて、犬が少々失敗しても褒めてやる。成功すれば、大げさなくらい褒める。おかげで自分の声がどんどん高くなって喉がカサカサ、こめかみの辺りがキーンとなってくる。ハンドラーのモチベーションが下がってしまいそうだ。ハンドラーにも、何か「ご褒美」を用意しておく必要があるなぁ。
 ドッグダンスの技を言えばキリがない。簡単な「フロントオスワリ(ハンドラーの正面で向かい合ってお座り)」から「ツイスト」「ピルエット」「サーペンタイン」「スカロップ」「スパイラル」「サンダー」、果ては「タガー」など、最初に成功したワンちゃんの名前がついた高度な技(イナバウワーとかニャンコ空中三回転みたいなもんか?)まである。しかし本当に必要なのは、モチベーションと集中力。これに尽きると思う。
 講習会では、なんとか音楽に合わせてルーシーと動いてみたが、できないことも多い。「バック」や「バウ(お辞儀)」もそうだ。また、今まで自分がきっちり教えていなかったので、ルーシーができないことも多かった。例えば(あ)は「スピン」をルーシーに教えた時、特に方向まで考えていなかった。そのためルーシーは右回りは得意だが、左回りが苦手だ。そして(あ)がエサを手に持つと、指示をされなくてもルーシーは「お座り」をする。ルーシーの性格が元来反抗的だったため、「指示されなくても自分から服従の姿勢を見せる」ことには、(あ)はエサを与え褒めてきた。そのため「タテ」の時に座ってしまうクセがついた。(あ)が、エサを持った手をルーシーの鼻面に一旦近づけ引く素振りをして、ルーシーを誘導して立たせたとしても、お尻が下がったままで、ルーシーの「タテ」は妙なヘッピリ腰だ。いろいろと矯正しなければならない点が多い。
 それでも音楽が鳴ると、ルーシーは「ヘッ」と息を吐き(あ)の顔を見上げる。N先生も「もしかして、ルーシーは音楽が好きなんじゃない?」と仰る。表情がパアァっと明るくなるそうだ。失敗しても不格好でも、楽しけりゃ良いか。まぁ、私とルーシーだもんなぁ。