わからない

 ルーシーはまだ、足を拭かれると歯を剥き唸る。我が家に来た当初、足を拭く場合には仰向け抱っこにしていたが、体を持ち上げるたびに、歯を剥いたり、唸ったり、こちらの手を噛もうとしたりしていた。シツケ教室のN先生から「イヤなことを無理強いしていると犬の性格が歪む」と言われ、方法を変えて今度は自分から新聞紙に伏せさせて、足を拭いていた。これだと歯を剥き唸ることはあっても、少なくともこちらの手を噛もうとはしない。手を噛むことはいけないことだと本人も理解しているのだ。それなら、これ以上を求めることは止めようと(あ)は思っていた。
 ところが先日、他の飼い主さんから「ルーシーの反抗的な性格を考えると、歯を剥き唸ることを放置していてはいけない」「我慢することも覚えさせないと」とのアドバイスを受けた。ルーシーはまだ我が家の人間に完全に服従した訳ではない。時折、自分の思いどおりに行かない時(た)の手を噛むことがある。また(あ)とのフリスビーは手元までフリスビーを届けることが少なく、自分のルールで遊ぼうとする。飼い主に対する服従姿勢を徹底させないと、家の中はともかく外で制御が効かなくなる。
 これを聞いて(あ)は、遅まきながら、飼い主のリーダーシップを再度確立しようと考えた。散歩では、リードを引っ張らせない。フリスビーは手元に持ってこなかったら、その時点で終了。足を拭く時は防犯ブザーを使って、ルーシーが歯を剥き唸ったら、これを鳴らしてイヤな思いをさせて、黙ったらご褒美を与える。メリハリのあるシツケで、服従姿勢をとらせるように徹底しようとしたのだ。
 引っ張り癖やフリスビーは、少しずつだけれども成果が見えてきた。その一方で、歯を剥き唸る問題だけは悪化したような気がする。
 ルーシーは−(あ)が足を拭く場合は少なくとも−新聞紙に伏せようとしなくなったのだ。「歯を剥き唸るから大きな音を聞かされる」のではなく、「新聞紙に伏せたらイヤなことばかり起こる」と理解してしまったらしい。どうやら歯を剥き唸るのは、無意識であって、意識的にこのような態度を執って、足を拭く手を止めさせようとしているのではないようだ。単に「イヤだ〜!!」と訴えているだけらしい。
 新聞紙に一瞬伏せても、(あ)が雑巾を手に取ると、直ぐに立ち上がり玄関のたたきをウロウロ歩く。狭い玄関で隠れる場所を探しているようだ。目は決してこちらを見ようとしない。「ルーシー、伏せ」と何回指示を出しても、そのうち玄関の隅に立ち止まって虚空を見つめ、嵐が過ぎるのを体を硬くして待っている。もはや自発的に伏せることも止め、指示を出されても聞こうとしない。これでは何のための方針転換か分からない。
 しかたがないので、結局仰向け抱っこをすることにした。ルーシーは相変わらず最初の1分弱は歯を剥き唸るけれど、噛もうとはしない。そのうち直ぐに唸ることも止めて、おとなしく足を拭かれている。しかし、最初の「ウ」だけは止めそうもない。
 人間でも無意識にとる行動、つまり癖は意識的に止めることは難しい。多くの場合、自分がそのような行動をとっている事実さえ知らないのだ。ましてや犬にとっては、これをコントロールするのは無理なのではないだろうか?
 ルーシーにしたら、妥協したところがイヤなことをされて「なんだよ!」と思っているんだろう。(あ)自身も、これでルーシーが我慢することを覚えてくれるのか、疑問を感じている。
 その一方で、青空ちゃんの服従姿勢などを見ると「やっぱり犬が確実にこういう姿勢を取れないと、家の外で不特定多数の人々に会わせたり、全く知らない環境に置くことはできないんだろうな」とも思う。青空ちゃんの場合、セラピー・ドッグを目指しているから、飼い主への絶対服従が必須条件だ。ルーシーにそこまで求めるつもりはないが、公園で他のワンちゃんや飼い主さんに迷惑をかけないよう、確実に飼い主の指示に従えるようにする必要がある。
 うーん、どうしたもんかねぇ?それにしても。