距離感

 犬たちには抜群の距離感がある。ルーシーが他のワンちゃんと遊んでいるのを見るたび、(あ)はつくづく感心してしまう。旧知の間柄のワンちゃんの中に新しい友達が一匹加わっても、互いの距離を調整して、うまく一緒に過ごすことができるのだ。
 例えば、昨日はピーター君、アンディ君、フェリちゃんに、新しいお友達オレオ君が加わった。ルーシーはオレオ君に挨拶をして、すぐに一緒に走りだす。ものの3分ほどの間に、相手が敵意を持っていないか、自分に興味があるか、どんな遊びが好きか、体力やスピードで対抗できるかを感じ取る。最初の三分間で得た印象は、その日はまず変わることがない。ただし犬だって気分が変わることもあるから、次回出会ったら別の遊びをするかもしれないけれど。
 オレオ君は、体力やスピードでルーシーを圧倒していた。最初の三分で「アカン」と思ったルーシーは、ピーター君にストーキング(決してハーディングではない)を仕掛ける。いつもなら互いにフリスビーを見せびらかして「これ良いでしょ?追いかけて」と誘い、結局追い駆けっこなんだか、手持ちのオモチャの見せびらかし合いなんだか、よく分からない遊びで終わってしまう。ところが、昨日のルーシーはフリスビーには見向きもせず、フリスビーを追いかけるピーター君ばかり見つめていた。木の陰に半分隠れて地面に伏せ、ピーターの姿をジト目で見つめる姿は、ストーカーそのものだ。ピーター君がフリスビーを目がけてダッシュすると、進路妨害をしておいてガウガウ言う(ピーちゃん、甘えてばっかりでごめんね)。ルーシーはオレオ君もフリスビーが得意だから、自分がフリスビーを追いかけても、とても敵わないと思ったらしい。
 一方ライバルができたピーター君は、フリスビーをくわえて見せびらかす。「見て見て!ボク、こんな良いのを持ってるんだよ」と得意げだ。すると、オレオ君はフリスビー2枚キャッチで対抗する。「ボクなんか二枚だもんね〜」二匹でウロウロしながら、フリスビーをお互いに見せびらかす。そして飼い主の誰かがフリスビーを地面から拾うと「ボクに投げて!」とアピールする。やっぱり、たくさんフリスビーをとった方が勝ちなのかな?
 アンディ君はこの日は走る気がない様子で(あ)の側に来てくれた。アンディ君はルーシーが苦手だから普段は距離を置いているけれど、この日はルーシーがピーター君につきまとっているので、(あ)の側も平気らしい。牛スジを茹でて、電子レンジで乾燥させたものを持っていたら、エラく気に入ってもらえたようだ。珍しく「おかわり、ちょーだい」と控えめで可愛いおねだりをしてくれた。
 オレオ君は遊びに没頭するタイプらしい。集中力が持続する上に、飼い主さんが一声呼べば「よろこんで〜」と走り寄る。対照的なのはルーシーだ。しばらく追い駆けっこを止めていたからか、ルーシーはこの日、全く呼び戻しに応じず、木の陰でピーターの姿をジト目で見つめていた。アホめ、牛スジは売れ切れたぞ。
 フェリちゃんは、お父さんとお兄ちゃんと遊ぶのが嬉しいらしく、他のワンちゃんたちと一緒に遊ぶ時間は短かった。それでも、くわえていたボールを転がして、オレオ君に渡す。あくまで優しいお姉さんなのだ。そして「エヘ」と笑いながら飼い主さん達に挨拶していた。
 互いに理想的な距離を早く把握して、一緒に仲良く時間を過ごす。それって凄いことだと思う。自分が人付き合いがヘタで、他人とどんな距離で接したら良いか分からないからだろうけど、犬みたいにできたら最高だろうな。