マット

 以前のシツケ教室で「マット」という指示を習った。この指示が出たら、床に置かれたマットに移動するというものだ。昨今、屋内で飼われているワンちゃんが増えたことで、玄関先に人が来ると吠えるケースが多くなった。ドアチャイムが鳴ったら、飼い主は「マット」と指示を出して待たせておき、玄関で宅配業者から荷物を受け取ることができる。犬がOKと言われるまで、じっと待っていられたら、褒めておやつを与えるというもの。
 ルーシーに音での指示を覚えてもらおうと、(あ)は毎食「わっせわっせゲーム」をさせている。「マット」「サークル」「ハウス」という指示をランダムに出して、それぞれマット、サークル、クレートに自分で移動するように教えているのだ。最近まで、それぞれの場所に向かって、指を差したり視線を送ったりしてヒントを与えていたが、完全に音だけを聞かせてルーシーを正しい場所に移動させなければならない。難度を上げてしばらく経つが、意外と失敗する確率は高い。
 理由のひとつは、ルーシーがこれまでに指示をきちんと聞かず、覚えていなかったからだ。雰囲気で察して移動している時は、なぜか正解率は100%に近い。例えば、食事の後は(あ)が廊下の掃除をするから、自分はサークルに入れられる。(あ)が雑巾を手にした時点で、ルーシーはサークルに入る心の準備ができている。それどころか「さぁ、指示を出せ」とばかりにサークルの入り口で待っていることもある。この状況で「ハウス」と言われても、ルーシーは迷わずサークルに入るだろう。指示を全く聞く気がないからだ。
 二つ目は、指示を聞いても直ぐに忘れるからだ。「マット」と指示を出されても、そこに向かって走っている間に「アレ?どこに行くんだっけ?」と、こっちの顔色をうかがう。ちなみに我が家の廊下は、指示を忘れてしまうほど長くない。3秒で端から端まで移動できるはずなのだけど。
 三つ目は、ルーシーがズボラで予想を立てて移動しているからだ。「サークル」の指示の後に「サークル」はないと思っているから、こちらが指示をする前にマットやクレートに向かって走りだしている。(あ)が裏をかくと、ルーシーは「アウゥ」と文句を言いながらウロウロする。勝手に予想して、予想を裏切られたら文句を言う。困ったヤツだ。
 いつもならサークルとクレートの中間地点にマットを敷いておくのだが、今日はサークルの3歩手前に置いてみた。すると「マット」の指示を出されて、ルーシーはいつもの場所つまり中間地点で伏せている。マットがないっちゅーに。
 「ルーシー、マット。マットだよ」と言われても、ルーシーは伏せたまま首を傾げるばかりだ。アホ、お腹の下を見な。
 (あ)がマットを指を差して「あそこだよ」と言うと、ようやくルーシーは気が付いたらしく「アウ」と文句を言い、ヨダレを垂らしながら移動した。
 ズボラで忘れっぽいボーダーコリーって、本当にボーダーコリー?