食うな!1

 う〜、なぜか仕事が立て続けに来てしまったぞ。お父さん、しばらく夕飯は鍋で我慢してね。(以上、業務連絡)
 忘れないうちに前回のシツケ教室のことを書く。土曜日の欄に掲載したお父さんの写真では、ルーシーがまるで優等生のように見える。また、前回から二週間で復習した成果を見せたら、A先生はエラく褒めてくれた。しかし(あ)には分かっている。実はこれは(あ)の作戦が功を奏しただけのこと。ルーシー自身は、まるで変わってはいない。
 毎回一番頭が痛いのは、妨害だらけのヒールウォーク。ピーピー鳴るオモチャだけではなく、トリーツまで地面に置かれ「ご自由にご試食ください」状態。ましてやルーシーはノーリード。(あ)の手持ちのトリーツやフードは家でも食べられると思っているから、なかなかこちらに集中しない。よしんば指示に従ったとしても、ルーシーにとって、褒め言葉はあまり嬉しくない。ご褒美は、あくまで口に入ってモグモグできるものでなければならないからだ。
 自宅でも廊下にフードを置いて少し練習はしたが、ここでは「待て」をさせても文句なく従う。なぜなら、他に誘惑がないからだ。ご褒美は「いつものアレ」であっても、他に心を惹かれるものがなければ都合良く指示に従うものなのだ。
 今や食べ物が命のルーシーを、いかに上手く地雷(トリーツ)を避けながら歩くか?(あ)は悩んだ挙げ句、ピーママさんからいただいた、とっておきのトリーツを効果的に使うことにした。
 このトリーツは、ルーシーが今まで食べたことのないピーナツ・バター味だ。ニオイもある(必須)。教室につくまで、この武器の存在はルーシーにも秘密にしていた。また高カロリーのトリーツに見えたので、教室に向かう前に(あ)は小さく4分割にした。ルーシーに集中はして欲しいけれど、一度に大量のトリーツは与えたくはない。そこで、砂肝とドライフードも一緒に持っていくことにした。
 食べたことのないものを前に、ルーシーの目の色が変わった。「何、それ何?何なの?」と、くっついてくる。シメシメ。
 A先生は始めは地雷(ビスケット)をフィールドの外に並べていたが、そのうち地雷パート2(ダック)をフィールド内にまで投げ込まれ、(あ)はさらに窮地に立たされることになった。今やフィールドも地雷原である。急遽、作戦変更である。
 (あ)のプランB−−それは「バラエティ・パック」作戦である。ピーナツ・バター、砂肝、ドライフードを順番に繰り出して、ルーシーに飽きさせない。投げ込まれる地雷に負けないように、次々に攻撃を繰り出すのだ。ええい、持ってけ、ドロボー!
 (あ)は頭に血が上ってフラフラになった。A先生の「はい、おしまいにしましょう」という声で完全に脱力。ヘロヘロである。A先生の声を待ってましたとばかりに、ルーシーは地雷を食べ始めた。正直のところ、(あ)も「それで良いのだ」と思っていたのだ。
 A先生が慌てて「ダメですよ!」と声をかけた。(あ)もルーシーも「ん?」と顔を向ける。
 ルーシーは、歩いている間は地雷に手を出さないで我慢をしていたら、最後には食べさせてもらえると理解していた。しかし我慢させた後とはいえ、犬に地面に落ちている食べ物を食べさせてしまったら、拾い食いを強化してしまう。(あ)はそこまで考えていなかった。本来は落ちている食べ物は、犬に与えず、別のご褒美を与えるべきなのだそうだ。ルーシーも(あ)も自宅の練習では、廊下に置いたフードも最後に食べさせてしまっていた。あぁ、こりゃ大失敗だ。
 この教室の授業は今回で3回目だが、ルーシーの集中力を持続させるかを考えると、毎回頭が痛い。ふと気がついたのだが、飼い主側が頭をひねって姑息な手を考えているだけで、ルーシー自身には全く進歩がないのではないか?むむむ〜。
 地雷原の行進の後は、前回の飼い主から遠ざかるバック以外に、飼い主に近づくバックを習う。具体的に言うと「ターンバック」。バックで飼い主の足の間に車庫入れするような感じ。ルーシーは(あ)の目の前なら、この技ができる。ただし離れた場所からターンバックをさせると、先に(あ)に近寄ってきてしまう。ターンと言われた時点で半回転して、バックの距離を長くとらなければならないようだ。先生のアドバイスにより、指示棒にジャーキーをつけて、クルリと回してターンの位置を示すが、逆に棒を扱うことに、こちらが手間取ってしまった。
 うーん、まだまだですなぁ、二人とも。