ルーシー、地雷原を行く

 シツケ教室の授業が始まる前に、A先生にルーシーの「タイコ焼き拾い食い事件」の顛末を報告した。そしてトレーニングを頑張って教室内では成功したとしても、普段の生活で拾い食いをストップさせることが難しいことを説明した。
 先生は、パートナーの青空(そら)ちゃんに対して、足の踏み場もないような地雷原を用意し、日々トレーニングを積んでいるそうだ。床一面にトリーツをまき散らし、その中で訓練させているらしい。だから先生が側にいる時には、青空ちゃんも絶対に拾い食いはしない。しかし先生が見ていない場合は、青空ちゃんも「拾い食いするでしょうね」と仰る。先生が見ていない時は、「解除」されている状態だからだそうだ。
 実際、ルーシーに拾い食いを止めさせることはできないだろう。事件では、ルーシーがタイコ焼きをくわえたまま、こちらの声に「ヤバイ」という表情を浮かべ、次の瞬間逃げた。この一瞬に、少しでも「どうしよう?」と躊躇するようになってくれれば、こちらがタイコ焼きを奪い取るチャンスが増える。そうなれば、トレーニングの成果があったと言えるだろう。青空ちゃんほどのことはできなくても、そういう意味で頑張ろうと思う。
 そう話していると、ルーシーはベンチの下に潜り込み、何やら食べてしまった。私たちの前にいた飼い主さんがトリーツを落としていたらしい。先生の指示で(あ)は急ぎルーシーの口をこじ開ける。間に合えば、口の中の食べ物を取り出す。間に合わない場合にでも、犬にとって、口をこじ開けられ口の中を触られることは、かなりの不快感を伴うらしいので、抑制効果につながるそうだ。
 という訳で、またまた地雷原である。今回ルーシーは必死で頑張っていたと思う。口の端からヨダレが玉になって流れ、床に水玉模様を描こうとも、一生懸命、床に置かれた地雷(トリーツ)を無視して、(あ)の指示に従っていた。地雷のすぐ側で伏せさせられても、目の前でビスケットを割られようとも、おそらく美味しそうなニオイが鼻孔を刺激していたに違いないけれど、一生懸命に我慢していた。(あ)は、ご褒美をふんだんに与えて褒め讃える。
 ようやく先生が「はい、終わりにしましょう」と言われても、床の地雷を片づけるまでは、ルーシーのコマンドを解除しない。ようやく解除された時、ルーシーは地雷があった場所をいちいち確認して、取り残しを探していた。こちらが「食べ物を取り上げるチャンス」をうかがうのと同じように、ルーシーも「拾い食いのチャンス」を探している。うーん、やっぱり「拾い食いは、やってはいけないことだ」とまでは認識していないなぁ。
 残りの時間で前回の復習をしてみる。飼い主から離れるバックは、進路が斜めになってしまう点以外は、なんとかOK。問題は「ターン・バック」。ルーシーが(あ)から離れた位置で、「ターン(ルーシーの場合は、「まわれ」)」を指示すると、ルーシーは(あ)にまず近づいた上で半回転してしまう。指示された時点で半回転して、そこから(あ)までの距離をバックで進むのが理想である。原因のひとつは、(あ)が「まわれ」と言った時点でバックまでやってしまうことにある。「まわれ」は、あくまで半回転の指示でしかないから、「バック」の指示が出るまでは後ろに下がってはいけないのだ。もっと練習する必要があるなぁ。タメイキ。
 シツケ教室でダンスの技をひとつ覚える間に、普段の生活では、拾い食い防止など基本中の基本ができていないことを思い知らされる。こんなんで本当に良いのかなぁ?