これで本当に良いの?

 モー姉に「ひとつひとつは小さいことでも、ルーシーに『自分がリーダーだ』と誤解されないように気をつけて」と言われたこともあり、(あ)はルーシーを散歩に連れて行く時も、自分よりも前に歩かせないように気をつけることにした。自分の前を歩いて良いのは、ルーシーに排泄させる時だけに限り、それ以外は自分の足よりもルーシーの頭が出ないように気を付けている。仰向け抱っこの件を相談したら、ある他の飼い主さんから「それよりも先に、自分よりも前に歩かせないようにさせないと」と言われたからだ。排泄さえ、こちらが許可を与えた場合のみに限る。
 こうなったら一貫して自分がリーダーだということを教えなければ。それでもダメならあきらめよう。飼い主がやるべきことを全てやらずして、ルーシーが服従姿勢をとれないと、犬だけを責めるのはフェアではないからだ。かろうじて、今のやり方を続ける上で(あ)が自分の人間性を失わないでいられるとすれば、その点だけである。
 不思議なことに、モー姉の授業以来、ルーシーは引っ張り癖が収まってきた。以前はリードを引いて「引っ張らない」と注意をしても、直ぐに忘れてグイグイと引っ張っていた。今では、公園に入るまでリードをたるませて、ついて歩くことができる。公園に入ると、ジワジワと前に出てしまうが、こちらが立ち止まって「ルーシー、どうするの?」と言うと、ルーシーは「ツイテ」の位置に戻ってくる。前に出そうになったら「あああああ」と声をかける。大抵の場合、ルーシーは歩みを遅くして正しい位置に戻ってくるようになった。速く遊び場に行きたい気持ちを一生懸命、自分なりに抑えているようだ。残念ながら、道すがら、仲の良いワンちゃんや可愛がって下さる飼い主さんの姿を見たら、首が絞まろうがおかまいなしに引っ張るけれど。
 雑草食いを注意されたら、止めるようにもなった。他のワンちゃんとの楽しい遊びを切り上げて帰る時も、おとなしく近寄ってきてリードを装着させるようにもなった。それなのに、なぜか仰向け抱っこをすると歯を剥いて唸る。
 なぜなのだろう?なぜ、これだけが、どうしても治らないのか?今日も夕方帰宅後、仰向け抱っこで足を拭こうとしたら(あ)は左手を噛まれた。怒ってみたものの、ルーシーはなかなか音を上げない。根比べになったら、分が悪いのはこちらである。ルーシーは、マズルを掴んでも痛みを感じないみたいだからだ。たとえ少々痛いと感じていたとしても、罰の痛みに慣れてしまったら、こちらはより厳しい罰を与えざるを得ないではないか。
 「ルーシー、早くあきらめて」口には出さないけれど、毎回(あ)は心の中で叫んでいる。どうして、こんなことやらないといけないの?早く私に止めさせて!