十字靱帯の断裂について 3

 シーザー・ミランに言わせれば、犬は運動によって、自分が犬だということを実感する動物だという。いずれは、どんなワンちゃんも高齢になり、体力が落ち、無邪気に好き放題に走り回ることを止める日が来るだろう。しかし、できるだけそんな日が来るのを遅らせてやりたい。
 (あ)がこれまで見た海外の獣医・動物病院のサイトによれば、十字靱帯を断裂し手術を施しても、完全に運動能力を元の状態にまで戻すことは非常に難しいという。自分の犬が十字靱帯を断裂し、従来の治療方法でケアをしている飼い主さんも「目標は膝関節を再び安定させること」としている。損傷・断裂を受けたら、靱帯を元通りにするのは至難の業なのだ。よしんば安定しても、走ったりジャンプしたりと、膝関節に負担をかけるような運動は厳禁だという。また普段は非常に気をつけていても、一瞬で再び膝関節を傷めるかもしれない。宅急便が来て、犬が興奮して走り回る。他のワンちゃんと出会い飛び掛かる。回復以降も飼い主は、その恐怖と向き合い続けなければならない。犬にとっても、飼い主にとっても、できる限り予防した方が良い。
 十字靱帯の断裂の原因は、大きく分けて急性外傷と変性だという。急性外傷は、運動のさせ方を考えながら、できるだけ事故が起こらないように注意するしかないだろう。運動の種類もさることながら、ロケーション選びも重要だ。硬い路面や急斜面、凹凸のある場所を避け、滑りにくいところを選ぶ。大型犬は、ぬかるみに気をつけなければならない。必要以上に踏ん張ってしまうからだ。
 一方、変性が原因の十字靱帯断裂は、どう予防してやれば良いのだろう?体の内部でどれだけ老化が進んでいるのか、年齢は同じでも犬種や個々の犬によって違うだろうし。ふと思いつき、先日、掛かり付けの獣医さんに訊いた。
 「予防策として、サプリを与えることもできますね。」と先生。「痛みが出ないうちに、ケアができればベストです。」
 「でも足を引きずったりとか、本人(犬)が痛みを訴えないのに、どうして異常があると飼い主に分かるんでしょうか?」
 「ある程度なら分かりますよ」と先生。ルーシーでデモンストレーションをしてくださった。
 まず、犬を自分にお尻を向ける形で真っ直ぐ立たせる。両手で腰から後ろ足を触る。大腿部と脛部を掴むようにして厚さを調べる。両足で厚さが極端に違う場合には、一方の足に異常があり、もう一方の足でかばっている可能性が高いという。
 「でも変性による異常だったら、変化は緩やかだし、毎日顔を合わせている飼い主には、わかりにくいですよね?自分の犬の老化の度合いを、どう診たら良いのでしょう?」
 「これは、まぁぁったく科学的根拠はなく、僕の主観的なモノなんですが」と先生。「僕は顔の白髪を見るんですよ」
 正しいかどうかは分からないが、犬の顔に白髪が出てきたら、体の他の部分でも同じ程度に老化が進んでいるという前提で、患畜を診ておられるそうだ。この前提に立ち、診察時に骨格や筋肉を触って異常がないかどうかを調べるという。
 この先生に限らず獣医さんの話を聞くと、どうやら靱帯の損傷や断裂は、活動的な犬が不幸な事故に見舞われた結果というよりは、犬が年齢をとれば、いずれは起こるものと考えておられるようだ。靱帯損傷・断裂は、どんな犬種にも、どんなワンちゃんにも起こるもの。今回、(あ)もちょっと認識を新たにした気がする。