お師匠様コンビが、ペット霊園でドッグダンスを披露するという。始めにこの話を聞いた時、信じがたい気持ちになったのと同様に「え〜、良いの?」と思わず口をついて出てしまった。だって霊園って、亡くなったペットに安らかに眠ってもらう場所でしょ?そんなところで賑やかな音楽を流して踊るなんて不謹慎とか言われないのかしら?よくよく聞くと、セラピードッグとのふれあいがメインらしい。
 こちらも将来お世話になるかもしれないから、そういう場所も見ておいても良いだろう。という訳でルーシーを連れて行く。
 驚いたことに、設備や対応も人間様用の霊園と変わらない。墓地の区画が小さいだけだ。卒塔婆に「○○家 愛犬」と書かれたものもあれば「○○ちゃん ありがとう」と単独名が立派な墓石に刻まれたものもあった。お参りの方は手桶やお花を手に、しんみりとそれぞれのお墓の前で語りかけたり、祈ったりしておられた。盂蘭盆の法要とあって、お堂の中で特別にお経を上げてもらっておられる方もおられた。読経の声や様子はテレビで玄関前に流されていた。驚いたことに猛暑にもかかわらず黒い服を来ておられた参拝者もおられた。

 お師匠様達とパートナーのワンちゃんにとっても、暑さとの戦いだったに違いない。正午、2時と一番暑い時間帯にセラピードッグのデモをしておられたようだ。ダンスの時間を迎えた頃には、人犬ともに疲労はピークに達していただろう。直射日光は当たらないとはいえ、冷房の効いた室内ではない。お堂の玄関先にカーペットを敷き、コーンで囲った小さなスペースだ。冷風機が用意されていたが、もちろんダンスをするペア達のためではない。そういう意味でとても厳しい条件である。

 それでも青空ちゃんは素晴らしかった。全体を通じてスピードは全く落ちることなかった。どちらかというと焦っているような印象を受けた。得意技「クロス」を見た観衆からは、オドロキと感嘆の声が上がっていた。
 初めてアジル君のダンスを見たが、集中力が素晴らしかった。体格の大きなワンちゃんには非常に不利な環境だったが、それでも一つ一つの技を決めていく。そしてハンドラーに集中し、周囲に見知らぬワンちゃんがいようとも全く気に掛けない。何よりも落ち着いているところが素晴らしい。

 ゴールデンのフィーユちゃんも、大活躍だった。トリックの教え方を披露する際も、お茶目な一面を見せ、観衆には笑顔がこぼれていた。 

 一方、観客席のルーシーは、意外と静かにしていた。初めての場所で緊張したのかな?周囲の皆さんから「あ、(青空ちゃんやアジル君と)同じ犬だ」と言われ、こちらは非常に焦り、幾分うわずった声で「コイツは、あのワンちゃん達と違ってアホアホ犬ですから」「飛びつきチューをするので注意してください」と伝え、ルーシーの背後でリードを押さえ「飛びついたら、今日がオマエの命日だかんね」とギト目で睨む。
 周囲の人たちが非常に優しい目で自分を見つめていることに、現金者のルーシーが気が付かないわけがない。ここぞとばかりに周囲の人々に甘えていた。最後には↓の笑顔である。どうやら初めてのペット霊園は楽しかったらしい。