ワワワワワン!

 ルーシーは、見知らぬ人や見知らぬワンコを見ると、こういう吠え方をする。実は、隣のおじさんも庭に出ると、よく吠えられている。ルーシーの態度を見る限り、これまでは攻撃や威嚇というより、対象の目を見ないようにして吠えていた。「みんな〜、変な人(ワンコ)が来た〜!」とふれ回っている感じだった。ところが最近になって、見知らぬ人や見知らぬワンコに近づきながら同じ吠え方をするようになってきた。「来るな!」という意味なんだろうか。それなのにアンタが近づいてどうする!
 見知らぬ人の存在に気がついたら、(あ)は静かに「ルーシー、大丈夫」「(あっちに)行かないよ」「(ワンワン)言わないよ」と注意をして、それでもルーシーが近づこうとしたら、厳しく注意をするようにしている。大体の場合は静かに注意の段階で終わるのだが、思わぬ方向から人が現れたり、ルーシーが一旦納得した素振りをしながら、その後で吠えたりすることもあって、なかなかうまくいかない。
 今朝の散歩中も、おばあさんが通りかかった。いかにもルーシーが警戒心を募らせそうな人物だった。ちなみに、その条件とは

1)見知らぬ人や犬
2)傘や大きな手荷物、ゲートボールのスティックを持っている人
3)大きな声で話す高齢者
4)動きが緩慢な人、姿勢が悪い人
5)後ろ向きに歩く、手を振り回しながら歩くなど、普通でない動きをする人
6)どうして自分に近づいてくるのかが理解できない人や犬

 今朝の人物は、条件のうち1)2)(日傘)3)6)が当てはまるので、(あ)は「ルーシー、大丈夫だから」のステップから始めることにした。ルーシーはボールをくわえ伏せたままだった。「落ち着いてるかな?」と思いながら、気を抜かずにルーシーを見つめる。そうなのだ、「できた!」と気を抜いた瞬間に裏切られることは多いのだから。
 案の定、ルーシーは始め指示に従っていたが、しばらくするとポロリとボールを落として、「ワ」まで口にした。その瞬間(あ)が「わないよ!」と注意。ちょっと間をおいて、さらに「ワ」。タイミングを合わせるように、こちらも「いわないって言ったやろ!」気圧されたルーシーは、目を白黒させながら残りの言葉をモグモグと飲み込んだ。その姿を見て苦笑しながら、心の隅で「これってエゴだよな」と思った。
 近年、ボーダーコリーの知名度は上がり、散歩中に出会う人や小学生にまで「ボーダーコリーって賢いんだよね?」と言われることは多い。その一方で、ボーダーコリーが警戒心が強いことまでは知られていない。羊を守る目的で交配されてきた犬なのだから、警戒心が強くて当たり前なのだけれど、テレビ番組などで一般視聴者の目に映るボーダーコリー像は美化され偏っていて、ボーダーコリーの素晴らしい気質が、時には非常に扱い難いことまでは伝わっていない。そんな人たちの目には、ルーシーは単に「シツケの行き届いていないバカ犬」でしかないだろう。ある意味では正しいが、ルーシーの遺伝子に要求し過ぎている気もするのだ。
 そうは言っても、吠えるのはマズイ。これまで以上に気をつけないと。