Dog Days 

 Jon Katzの新刊本"Dog Days"を読んでいる。Dog Daysとは、7月から8月にかけての蒸し暑い猛暑の時期だから、タイトルだけは季節感のある本である。
 (あ)にとって、この作者の著作としては3冊目だ。前作"Good Dog"がほぼ全般にわたり特定の犬を取り上げているのと違って、今回は牧場通信のような内容で、犬ばかりではなく牛やロバ、ニワトリや羊そして人間も題材になっている。
 Jon Katzは、オーソンという訳ありのボーダーコリーを飼う上で「見放さないで、できる限りのことをする。」と約束し、シープ・ハーディングの訓練を受けさせ、最終的にはBedlam Farmという牧場を購入する。購入にあたっては、オーソンをシープドッグとして育て自信と生きがいを与え、牧場での生活で自分が自然とのつながりを取り戻すことが主要な目的だったので、牛やロバ、ニワトリや羊を育てて市場に売って生計を立てるつもりはなかった。彼の牧場は収入源ではなく、あくまで家畜が一生を過ごす場所なのだ。この本では、牧場の運営から地域の酪農家との考え方の違いなどが描かれている。本筋とは違うのだが、シープ・ハーディングについて面白い話があったので、紹介したいと思う。
 この牧場では、ローズというシープドッグがいる。ローズは仕事一筋の有能なボーダーコリーで、天性の才能を発揮して任務にあたっている。つまり人間が指示を出さなくても、自分で状況を判断し、羊を移動させ必要な行動をとらせることができるのだ。牧場の羊たちも一目置く存在で、ローズの指示には素直に従い、ローズが側にいれば安心して草をはむことができる。
 シープ・ハーディングは、人間と犬の共同作業だと思っていたが、実際は犬と羊との共同作業でもあるそうだ。犬が自分の意志を明確に示し、羊に理解させ、従わせる。だからハーディングにおいては、犬も羊も互いに100%集中することが重要なのだ。
 ところが牧場のヘルパーが羊におやつを与えたことから、作業に影響が出るようになる。驚いたことにピーナツは羊の好物なのだという。羊は、他の家畜に比べ単純な思考回路の持ち主らしく、人間のポケットには食べ物があると理解したら、ローズのニラミよりも、そちらに気が行ってしまう。人間に近づこうと群れを離れてしまうので、ハーディングにならなくなる。それどころか、ある羊は頭を下げローズを追い払おうとする。するとクーデターの兆しを感じ取ったローズが、力でねじ伏せようと羊に飛び掛かり、オシリに噛みついて相手に言うことをきかせようとする。口を使うことは、本来「禁じ手」である。
 ローズが必要以上に攻撃的になることを恐れた著者は、ヘルパーと「おやつの功罪」について議論することになる。著者は牛やロバにはおやつを与えているのに、羊には名前もなく(番号で呼ばれている)、おやつも与えていない。著者の頭の中では、牧場の動物に優先順位がついている。1番は犬であり、ロバ、牛、最後が羊とニワトリである。羊も著者に愛情を示さない。ヘルパーに言わせると、羊にとって、著者は犬とセットになっている。著者自身もボーダーコリー目線で自分たちを見ていると感じているのだという。
 それに対して、著者は「羊は総じて個性がないから、愛着を感じにくい。」「確かに自分は、全ての家畜や動物を平等に愛してはいない。羊はボーダーコリーにハーディングさせるために、この牧場にいるのだ。」と語る。そしてケンケンガクガクの論議を繰り返し「二週間に一度、ピーナツを与えても良い」という打開案を迎えることになる。
 「なんちゃって」とはいえ、ボーダーコリーを飼っている身としては、自分の犬がシープドッグだったらと想像し、自分の家が牧場だったらと考えることもある。冗談で「宝くじで3億円が当たったら、羊を3匹くらいなら飼ってあげるよ」などとルーシーに話しかけることもある。しかし現実は想像をはるかに超えた大変な事業であり、「なんちゃってボーダー」にも「なんちゃって飼い主」にも全く務まりそうもない。牧場経営者、酪農家には頭が下がる思いでいる。 

Dog Days: Dispatches from Bedlam Farm

Dog Days: Dispatches from Bedlam Farm