(あ)の悲劇

 お日柄も良く、(あ)がよよんとアホな妄想に耽っていたら、悲劇は突然やってきた。
 いつものようにF公園の隅っこで、ルーシーにラージサークルの復習をしていたら、背後から「ルーシー?」と声が。見ると、以前ルーシーと遊んでくれた少年達。彼らは(あ)が手にしていた紐付きボールを見て「やっぱりルーシーだ。」春休みとあって、仲良しグループで遊びに来たらしい。
 早速ルーシーを相手にボールで遊んでくれた。相変わらず、お兄ちゃん達は元気で、ボールを追いかけるルーシーを追いかけて走る。相手は四つ足なのに。若いって良いなぁ。この年になると「走ろう」って、気にもならないもん。転んでも「転んだ〜!」、ルーシーに逃げられても「抜かれた〜!」とケラケラ笑っている。少年達の素直な笑顔にこちらの頬も緩む。良いねぇ、少年。そのまま素直に大きくなってくれよ。
 子供達とルーシーの遊ぶ姿を見て、(あ)は、妄想があながち妄想で終わらないかもと思い始めていた。近頃の子供達は、大人と同じくらいストレスや悩みを抱えている。子供には子供の社会があるけれど、それは恐ろしく閉鎖的で狭い。そして子供達のルールや考え方がある。大人には、なかなか立ち入れない世界だ。それでも犬なら入れるかもしれない。犬は自分をイジメたり、小言を言ったりしないし、名前を呼べば振り向いてもらえる。遊ぼうと誘えば、嬉しそうに尻尾を振る。
 ルーシーも、青空ちゃんのようなセラピードッグにはなれなくても、子供達の遊び相手になれないかなぁ。子供達は、辛いこと、嫌なことがあったら、ルーシーと遊ぶのだ。そして悩んでいる子供達が一時でも悩みを忘れられたら良いなぁ。子供専門の遊び相手になれたら良いのにな。
 事実、目の前の少年達は、ルーシーとの遊びに飽きない様子だった。ボール遊びの途中で、一人のおじいさんがサッカーボールを蹴ってきた。なかなかコントロールが上手である。無言だが少年達に「サッカーをしよう」と誘ってきたようだ。少年達はボールを蹴り返すけれども、なぜかルーシーとの遊びを止めようとしなかった。自分たちが好きで得意なサッカーであっても、知らない大人と遊ぶよりも、ルーシーとの遊びを選んだようだ。
 ところが、だ。
 一人の少年が紐付きボールを思い切り投げたところ、ボールは地面にバウンドして沼へポチャン。おまけにルーシーも沼に入ってしまった。足が泥で黒くなった。「すいません」と謝る少年達。
 彼らの名誉の為に言っておくが、これは事故だ。彼らは悪くない。ボール遊びを始める前に、自分たちで「沼に入れないようにしよう」と注意し合っていたのだから。彼らに「大丈夫だよ。」と声をかけて、ルーシーの汚れの状態を確認していたら、その間に彼らは去っていってしまった。残念だなぁ。
 家に戻って足だけシャンプー。今回は、お腹までは汚れていなかった。用意したシャンプーが余ったので、肛門腺を絞ってオマタを洗ってやる。片手で尻尾を上げ手で肛門腺を絞ったが、なぜか出ない。押さえどころが違うのか?「ん?」と、顔を寄せたところ・・・。
 ブシュッ!
液体が顔にかかった。ぎぇ〜〜〜!! クッ、クッサ〜〜!!
 息をするたびに自分がクサイ。ニンニクを食べたって、こんなに自分がクサイことを自覚しないだろう。目に入らなかったことだけが、不幸中の幸いだけどさ。妄想が一気に去っていってしまった。
 ははは〜、笑わなしゃーない!!