QOL

 ご近所のあるワンちゃんと久しぶりに出会う。ルーシーとは年齢が近いこともあり、子犬の頃は、一緒に駆けっこをして遊んだ間柄だ。ところが大人になったら、なんだか愛想のない二匹になってしまった。飼い主が挨拶や立ち話をしている間、特にルーシーは知らん顔を決め込んでいた。それでも相手のワンちゃんは、(あ)の顔を見ると「ニカッ」と笑ってくれる可愛い子である。
 このワンちゃんは、見たところ全く異常はないそうなのだが、昨年のフィラリア検査の際に詳しい血液検査をしたところ、ある数値が正常値を上回っていることが分かり、その後、投薬治療をしたり、フードを変えたりして様子を見てきた。一年が経ち、再度検査をしてみたところ、同じ数値が倍に跳ね上がり、飼い主さんも頭を悩ませていた。
 この一年間で、肝臓に問題があるかもしれないとのことで、抗生剤やら肝臓機能のサポートをするフードやらを与えてきたそうだ。抗生剤といっても数種あるそうで、どれが本人に合っているのかは試してみないと分からない。そのため、抗生剤投与+血液検査というセットを繰り返したそうだ。それでも数値が下がることはなく、飼い主さんも投薬では効果がないのではないかと思い始めたという。
 最初の検査をした獣医さんには「肝臓の問題は、症状が出るのが遅い」「生検をするか、開腹手術をして肝臓の状態を確認するか」と言われ、足が遠のいてしまったという。生検といっても、針をお腹に刺して肝臓の一部を抜き取って検査をする。犬には負担だし、危険性もゼロとはいえない。ましてや開腹手術となれば、もっと大変だ。投薬やフードはともかく、生検や手術はOKとは言えず、別の獣医さんに係ることにしたそうだ。
 もう一方の獣医さんの下で検査と投薬を続けてきたが、数値では効果が見られなかった。その間、周囲の飼い主さんから、おやつをもらうことは少なくなったけれど、当の本人(犬)は全く変わらなかったという。そして今回の検査で数値が去年の倍になってしまった。これを受けて、この獣医さんも「生検か手術で確認」と言い出したそうだ。これには飼い主さんも参ってしまい、今のところ「しない」方向だという。
 このワンちゃんはルーシーと同じ3歳。お互い寿命は何年なのかは分からないけれど、ルーシーとて股関節が発症した時のことを考えると、これからの時間をどう過ごすべきなのかは、同じように頭が痛い問題だ。さらに踏み込んだ検査や手術や治療をしたら、問題は解決するかもしれない。ただし解決するかどうかは保証できないし、犬にも飼い主さんにも大きな負担がかかる。また解決するとしても、それまでの時間、犬にも飼い主にも幸せでいられるだろうか?少なくとも(あ)にとっては、頭痛の種が消えることがないだろうと思う。
 「もう、やるだけのことは全部やってしまったのよ」と、タメイキをつく相手の飼い主さん。心境は複雑だろう。一年という時間が長いか短いかは別にして、確かに、この一年間はとても辛い時間だったろうと思う。それを、これ以上延ばすことが良いのかどうか。自分に置き換えてみても簡単に答えは出ない。
 犬も飼い主さんも、変わらず笑顔で過ごせたら素晴らしい。犬と暮らすことは、とりもなおさず、人間と犬の両方のQOLなのだなぁ。