困った二匹

 昨夜は(た)の帰宅が遅く、(あ)は待ち疲れたルーシーをサークルに入れて、お風呂に入っていた。その間に(た)が帰宅。ルーシーが、夕食を食べている物音を聞きつけて騒ぎ始めた。お風呂の中で怒鳴っても近所迷惑になるだけだし、声をかければ逆効果だと思い(あ)は無視することにした。
 お風呂を出て二階に上がる。サークルからこちらの様子をうかがう気配はしたが、こっちが知らん顔をしていれば、ルーシーもあきらめるだろう。
 布団に入って本を読み出したところで、再び要求吠えが始まった。どうやらコイツは、(あ)の前で吠えたら怒られるので、いなくなるのを見計らっていたらしい。ルーシーにとって(あ)は「怒ったらコワイ人」だが、(た)は「家来」であり、困ったことに、本人もその地位を甘んじて受け入れている。何回か(た)には直接「ナメられてるで」ということは伝えて注意しているけれど、全く改善努力をする気がない。かくして(あ)は、布団の中で「(た)よ。ここで動いたら、ルーシーの思うツボだぞ。」と念じるしかなかった。
 ほどなくサークルの扉を開ける音がした。「No.1がしたいのかもしれないし」と自分を納得させる。
 そしてバァァン!バァァン!と大きな物音。ルーシーが廊下に面した和室の扉に体をぶつける音だ。・・・オイオイ。
 ところが(た)が対処する気配がしない。次にダダダダダと階段を駆け上がってくる音。
 普段の生活で、ルーシーには二階が立ち入り禁止区域になっている。階段は板張りで滑りやすく股関節に悪いし、(あ)は日中一階で過ごすので、二階で悪さをされても目が行き届かない。子犬の頃は、階段の上がり口にBBQ用の網を立てかけておいて、ルーシーがちょっかいを出したら落ちてくる仕掛けを作っていた。そのおかげで、ルーシーは自分から二階に上がることはなかったのだけれど。
 爪の音をチャカチャカさせながら、二階の廊下をうろつく気配。それでも(た)は動こうとしない。どうしてアンタは、動かなくて良いときに動いて、動くべきときに動かないのよ!
 ペーパーバックが曲がるほど握りしめ、聞き耳を立てながら「下へ行け〜」と念じてみる。ところが、ルーシーには(あ)のテレパシーは全く通じないらしく、真っ暗なはずの二階の廊下をウロウロ。
 業を煮やした(あ)が部屋を出る。「も〜、何なのよ。アンタは!」と文句を言いながら、10歩ほど先の二階の廊下のスイッチに手を伸ばしたところ・・・足が生ぬるい???。自分から初めて二階に上がった興奮のせいか、ルーシーは二階の廊下でNo.1をしてしまったらしい(泣)。せっかくお風呂に入ったのに〜。
 「ちょっと〜!ルーシーが二階でシーしたよ。踏んじゃったから動けないよ!」踊り場から階下の(た)に呼びかける。(た)は、慌てて洗面所にトイレシーツ等を取りに行ったらしいのだが、「あ、コイツ、こっちでもシーしとる」。何なのよ、その嬉しそうなリアクションは!大体アンタは今まで何をしとったんだ!?監視できないなら外へ出すなっつーの!
 二匹をギッと睨むと、ルーシーは(た)に続いてスタコラサッサと階段を下りていった。コイツらグルじゃあるまいな?
 翌朝のルーシーは、いつもなら頭から甘えに来るのに、知らん顔で一旦(あ)の前を通り過ぎ、そして少しバックしてオシリを足に押しつけてきた。昨夜怒られたことを覚えていて怖かったせいか、素直に甘えられなかったらしい。
 本当に困った二匹である。今夜から一緒にサークルで寝なさい。