グラグラ

 我ながら、信念も根気もない困った飼い主である。とうとうルーシーを自由に走らせてしまった。
 (あ)は、1ヶ月近くルーシーを走らせることなく、歩きだけの散歩でなんとか頑張ってきた。掛かり付けの獣医さんに「ルーシーは、フリスビーもボール遊びもダメ。ダッシュも良くない。走るのは小走りだけ」とコンコンと説諭され、現実を受け入れようとしてきた。
 ルーシーは公園に行くと「走って良い?」と必ず訊いてくるが、こちらが「ダメ」と言うと、意外にも素直に従っていた。確かに、大好きな人に会うと「ダメ」と言われようが、リードを押さえられようが、お構いなしに後ろ足で立ち上がり、ピョコピョコと飛びついていた。この行動だけは、さらにシツコク、激しくなった。それでも以前のように、走れないからといってストレスを貯め、尻尾を追いかけてグルグル回ったり、ヒマにまかせて手足を舐めまくり、ハゲを作ったりすることもなかった。こちらが拍子抜けするほど、ルーシーは走れないことを受け入れていたのである。
 ルーシーを間近に観察してモヤモヤしていたのは、実は飼い主二人だった。(あ)は、聞き分けの良すぎる我が犬に不安を感じて、負傷が予想以上にヒドイのではないかと頭を悩ませた。一方、楽観的な(た)は、ルーシーを走らせたい気持ちが抑えられず、リードを持ってルーシーと芝生を走った。当のルーシーにしたら、トロットみたいな速度だろうが、典型的なメタボ中年には「年寄りの冷や水」だったろう。お疲れさん。
 そんな時、(た)が"W○n"という雑誌の9月号を購入した(購入理由は、聴診器をつけたボーダーが表紙だったからだろうけど)。中に「いしかわ流 目からウロコの犬常識」なるコーナーがあり、”安静神話”ってほんと?という題名の記事があった。
 「いしかわ流」というのは、ムツ○ロウ王国の石川利昭氏の考え方であり、同氏は、2000匹もの犬と関わった経験から、いわゆる犬に関する常識は必ずしも正しくないと訴えておられるらしい。記事では、獣医さんから犬を安静にしておくように申しつけられた時の話が紹介されている。少し引用したい。


 『これがじつに困難なことで、私は一度も完璧な安静状態を作り出せたことはなく、またそれを受け入れた犬も知らない。犬を狭いケージやサークルに入れてみた。部屋に閉じこめ、なるべく顔を見せないようにしてみた。短い鎖でつないでもみた。
 さて結果はどうだったのか
 結論を言うと、それらの方法は、犬の心拍数を増やし、テンションを上げ、筋力を衰えさせ、八つ当たりや不安、寂しさによる破壊行動を誘発した。そして本来の目的である”行動規制”にはほとんど役立たず、かえって犬を異常な状態にしてしまうことが多かった
 そんなときに、獣医である友人からヒントをもらった。
 アメリカでは、股関節に問題が見つかった若い犬なら、行動規制をせずに自然に任せる方向に変わってきているね。そのほうが、体全体を使って自由行動をするので筋肉の発達を含めて良い結果が出ているそうだよ」
 (中略)
 「そうだろう。強制的にリードを引っ張って散歩をさせるのはいけないけど、犬自身が動きたいように動くのは、全く問題がないと思う。(中略)痛みがあれば、数日ほとんど寝て過ごして、復活すればまた走る。これで筋力が鍛えられて、60キロの巨体を維持してるんじゃないかな」』


 読みながら「わ〜、これはイカン。我ながらグラグラしてる〜」と苦笑い。そして、一回ルーシーを自由に走らせて、様子を見てみようかな?と思った。
 一ヶ月近く走らなかったことで、股関節は良くなったのか。体力は落ちたのか。走った後に痛みは出るだろうか。それは走らせないと分からないことだ。ちょっと自分に都合の良すぎる言い訳だろうか?
 昨日の夕方は、ストーキング対象のピーター君、お気楽組のクーちゃんとフラッシュ君、それにサンタ君、クッキー君が集まっていた。久しぶりに会う飼い主さん達は、ルーシーのことを気遣って下さったのだが、こちらは走る気、走らせる気マンマンである。少しの間、リードを離してみた。
 ルーシーは、芝生の広場をダッシュで3周ほど走り戻ってきた。トップを走るフラッシュ君は、ブッチギリで足が速いから、余裕で後続を振り切ることができる。従ってフェイントをかけることもないし、急なターンや急停止もしない。ルーシーが追いかけても、その点は、安心して見ていられた。
 ルーシーは、トップスピードで走っても足を引きずることはなかったが、呼吸が荒かった。やっぱり体力は落ちていた。ルーシーだけかもしれないが、どこかを傷めた場合は、走っている最中ではなく、その後に見られる。家への帰り道でゆっくりと歩きながら観察してみたが、足を引きずる様子はなかった。
 ただし、よほど疲れたらしく、帰宅後は爆睡。腰を揉むと少し張っている感じがした。翌日は水遊びのお誘いを受けていたのだが、水の中では、こちらのコントロールが及ばないことが多いので今回は断念。ま、ボチボチと筋力と体力を上げていかないとイカンね。 
wan (ワン) 2008年 09月号 [雑誌]