Happily Ever After

夕方、ルーシーを連れて自宅近くまで戻ってきた時のことである。知り合いの飼い主さん二人が立ち話をしていたところで、こちらをご覧になって、笑顔で「あ、帰ってきた」と仰った。見れば、足元に見知らぬパピヨンが一匹、リードにつながれていた。
 一人は、我が家の二軒先にお住まいの飼い主さん。我が家がルーシーを迎えた頃には、パピヨンのロン君を飼っておられたが、その後ロン君を亡くし、今は同じパピヨンモカ君を飼っておられる。もう一人は、シェルティのアニーちゃんのパパさん。こちらも最近アニーちゃんを亡くし、その後は犬を飼っておられなかった。
 ペットを亡くされた飼い主さんと話すのは、正直なところ、とても辛かった。お二人とも、自分のワンちゃんが元気な頃から、ルーシーを可愛がって下さっていた。ルーシーは、元より、お二人が大好きで、相手にどんな事情があるかなど考えるはずもなく、出会う度に飛びついて甘えていた。飼い主さん達は、ルーシーの姿を見れば、否が応でも亡くなった愛犬のことを考えざるを得ないだろう。一時は、わざと遠回りをして、顔を合わせないようにしていたこともあった。お二人がそれぞれ生前、愛犬をどれだけ可愛がっていたかを知っているから、彼らの悲しみは、どんな慰めの言葉でも埋められない。元気になっていただくには、こちらが極力傷に触れないのに限ると思っていた。
 ロン君を亡くしてほどなく、ママさんは、娘さんから「犬を飼って欲しい」と頼まれ、それが後押しになってモカ君を迎えられたそうだ。とはいえ、ロン君を亡くした悲しみは完全に癒えることはなく、今でも名前を呼んでしまうことがあるそうだ。一方、アニーちゃんのパパさんは、今まで何匹も犬を飼ってこられたけれど、アニーちゃんを亡くして「自分達が、あとどれくらい元気でいられるか分からないのに、次の犬を飼うのは」と、犬を飼いたい気持ちを抑えられていた。
そのアニーちゃんの飼い主さんが、新たにパピヨンを迎えられたそうだ。
驚く(あ)に、パパさんは「これもルーシーのおかげなんだよ」と笑われた。
アニーちゃんの飼い主ご夫妻とは、つい最近、偶然お目にかかったばかりだ。この時、パパさんは、こちらが何も言わないのに「また犬が欲しいんだけど、やっぱりねぇ・・・」と仰った。(あ)は、正直に「いろいろと事情があるでしょうが、アニーちゃんのパパさんは、犬を何匹も飼ってこられて、犬のことを私なんかより、ずっとご存じです。捨てられて処分されるワンちゃんが多い世の中では、私は、事情が許すならば、そういう方にこそ犬を飼ってもらいたいと思ってしまいます。私のワガママだとは重々承知しているんですけどね。」と言ってしまった。そして、よもやま話は保護団体の活動や里親制度に及んだ。
訊けば、その後アニーちゃんのパパさんは、ネットで偶然、里親探しをしているNPOに行き当たり「これは運命だ!」と思ったそうだ。そしてNPOを訪ねて、直ぐにパピヨンちゃん(4歳のパピヨン♀、マジックちゃん)を引き取ることになったとか。
驚きの急展開である。目を丸くする(あ)に、アニーちゃん、もといマジックちゃんのパパさんは、さらに驚くような事を仰った。
「ルーシーは、アニーが死んでからも、会うたびに、それまでと同じように僕に甘えてくれた。ルーシーに甘えられるたびに、犬を飼う喜びを思い出させてくれた。だから、マジックと会えたのはルーシーのおかげなんだよ。」
え〜!?アホアホ・ルーシーでも、お役に立てることがあったの?!
あまりの展開に心底驚いたのと、マジック・パパさんからの思いがけない優しいお言葉に感激して、思わず涙が出た。ルーシー自身は、単に自分が甘えたいから、飛びつきチューをかましていただけなんだけど。それでも、他のワンちゃんが幸せになる上で少しでも貢献できたのなら、これほど嬉しいことはない。
 はじめまして、マジックちゃん。これからよろしくね。
 これまでの道のりは大変だったろうけれど、これからは幸せになれるよ、きっと!!