困ったちゃん

 次のダンスに向けて、今まで覚えたトリックを少しずつ復習。というのも、ルーシーの癖が気になり始めたからだ。
 ダンスの本番で「ちょうちょ」の左側のターンをサボったり、「ぞうきん」の指示に従わず、指示していないバックをしてみたり。サボリの兆候が出た時点で、単品の強化はしてきたけれど、本番になって癖が出てしまう。これでは、新技を覚えても今までの技が足を引っ張ってしまう。覚えたはずの技が信頼できないようになってきた。
 一番妙なことになったのが「くるん(スピン)」である。前回のダンスでは、この技は入れていなかった。ルーシーにとって、これは好きな方の部類に入る。頭から進むアラウンドよりも、お尻から進む「くるん」の方が速くて、こちらは非常にフシギに思っていた。今でも相変わらず、この技に対するルーシーの動機は高い。スピードもある。しかし、なぜかお尻が地面に付いている。しばらく練習をしないうちに、なぜかオスワリの態勢で回ろうとするようになっていた。そっちの方が無理があると思うのだが。
 頭が上がるからオスワリしてしまうのかと考え、フードを手に持って動かしてみる。ところが、ルーシーは(あ)の手に鼻面を押しつけて、なんとかフードを奪い取ろうとばかり。こちらは「くるん」と指示を出して、手をグイと後ろに押してみるが、全く指示が耳に入っていない様子。後ろ向きに進むはずが、全く進まない。どうしちゃったんだ?忘れちまったのか?
 久しぶりに、基礎に戻って、ツイテ歩かせ8拍目でターンのシークエンスをやってみたところ、こちらが拍数を読み上げているだけなのに、指示を待たずにターンする。こちらは本来「1,2,3,4,5,ターン、ツイテ」と声をかける。そのことをルーシーは既に理解しているけれど、こちらが「ターン」と声を掛ける前にターンに入ってしまう。本人は「これでしょ?」とばかりに得意そうな表情を浮かべ、こちらを見上げている。むむむ、そうなんだけどさ・・・。
 「バック→ターンバック」も、(あ)の足の間を抜けた後、そのままバックするはずが、背後に飛びつくようになってしまった。確かに前回のダンスでは、拍数の関係から、一旦背中に前足をかけさせてから、センターに移動させていた。だから、その振付が記憶に鮮明に残っていて、自然と体が動いてしまうのは理解できる。しかしこれでは、ハンドラーの指示に従っていない。指示を聞いて動いているのではなく、自分の記憶や曖昧な理解で動いてしまっていることになる。
 これには、正直参ってしまった。どこから、やり直したら良いのかが、よく分からないからだ。例に挙げた「くるん」では、ルーシーは「(あ)の両足を中心に自分は後ろ向きに回って円を描く」と理解している(と思う)。しかし「立って動かないといけない」とは理解していない。困るのは、本人は座っているにも関わらず、自分は立って動いているツモリなのか、「くるん=何でも良いから後ろ向きに回って動けば良い」と理解しているから、こういう姿勢になっているのかが分からない。いずれにしろ、正しい姿勢を教え込む必要が出てきた。
 ひとつひとつの技を、なおざりにしたつもりはない。しかし態度が少し甘かったとも思う。元来ルーシーは、自分がすべき動きを覚えてしまうタイプで、それぞれの指示に従って動いている訳ではなかった。あくまで自分本位のダンスなのだ。繰り返し同じ動きをさせると文句を言い、時にはストライキを起こす。多分にルーシーの性格が原因ではあるけれど、(あ)がルーシーのやる気を削ぐことを恐れて、厳しい態度をとらなかったことにも原因がある。
 どう直していけば良いんだろう?そう考えると、気が遠くなりそうだ。