お気楽コンビの成長

 ルーシーとクーちゃんは、幼なじみのお気楽コンビ。ともに公園で駆けっこと取っ組み合いの日々を送ってきた。クーちゃんは、ルーシーよりも、ずっと他のワンちゃんと上手く遊ぶことができる。相手のワンちゃんに合わせて、遊び方を変えられる。子犬なら教育的な指導もするし、高齢のワンちゃんには、ゆっくりと近づいて優しく挨拶する。
 そんなクーちゃんも、2歳を超えたあたりから、相手を選ぶようになってきたそうだ。お母さん曰く「クーも、こんな風に遊ぶのはルーシーだけ」という。特に相手にマウンティングされた時は、鼻にシワを寄せるようになったらしい。
 二匹はお互いの姿を認めると、なぜか直ぐには近づかない。少し距離をおいて地面に伏せて、相手の出方を見る。「何を狙っているのかしらね?」と飼い主同士はクスクス笑って眺めている。
 そのうち、クーちゃんが、右に左にホップするような感じでステップを踏み、ルーシーを誘う。それを見たルーシーは、興奮してクーちゃんに突撃をしかけ、二匹はひとしきり走る―――というのが、昔の遊び方だった。
 最近のルーシーは、クーちゃんを無視して、その後ろからやって来るお母さんに突撃をかけるようになった。鼻を鳴らして飛びついて、いきなりおやつをねだる。クーちゃんは「アレ?なんで?」と当惑した表情だが、生来性格が良いものだから、一緒に並んでおやつをねだっている。
 ルーシーの頭の中では、クーちゃんと遊ぶ楽しさよりも、他のワンちゃんの飼い主さんから優しい声をかけてもらったり、おやつをもらったりすることの方が、重要になってきたようだ。その後も、クーちゃんと遊ぶことなく、(あ)に向かって「クーちゃんのお母さんに良いところを見せるんだから、ボールを投げて」と催促する。
 一方、無視されたクーちゃんは、しつこく誘い続けない。「ルーシーはボール遊びがしたいのか。じゃ良いや」と、他のワンちゃんに挨拶したり、お母さんにボールで遊んでもらったり。元々、遊び方には困らないワンちゃんなのだ。
 ルーシーのボール遊びは制限をしなければならないので、そのうち(あ)に「ルーシー、おしまい」と声をかけられる。その頃になって、ルーシーは、クーちゃんに遊ぼうと誘う。ところが、その頃、クーちゃんは自分のボール遊びに夢中だったりする。その姿を見て、ルーシーも「あ、クーちゃんは忙しいのね。じゃ、おやつをもらいに行こう」「あっちで知らないニオイがするぞ」と行ってしまう。
 飼い主二人は「なんだか一緒に遊ばなくなったね」「どうしたのかねぇ」と不思議に思っていた。お互いに遊びたい気持ちはあるが、相手が誘いに乗ってこなかったり、すれ違っていたこともある。それに、相手にしつこく誘いをかけなくなってきた。要するに、二匹での遊びが一番でなくなってきたのかな?
 お気楽コンビも成長してきたということか。成長と引き替えに、子供らしい遊びができなくなってきたということか?そう思うと、ちょっと寂しい気がする。