言わんといてや

 厳冬期に入り、毎日朝はマイナス気温。散歩の時間は、夏よりも2時間近く遅いというのに、地面には霜や雪。ルーシーが立ち止まると、こちらが寒いので早足で歩く。
 こうなると、散歩中に出会うワンコや飼い主さんも少ない。ルーシーも、つまらなそうだ。ちょっとでも見知った人に出会ったら、普段の熱烈歓迎度がさらにアップ。知らない人が見たら、立ち上がって「頭がおかしくなったんじゃないの?」と思われそうな妙な声を出してアピール。ピーピー、キュンキュンと鼻を鳴らすだけでなく、アウアウ、キャンキャン言い出す有様。止めてよ〜、虐待してるって思われるじゃん(汗)。
 コイツの思惑は分かっている。散歩中に出会うワンコや飼い主さんが少なければ、おやつをもらえるチャンスが減る。すると腹が減る。だから一発百中で、おやつをもらわないといけないと思っているのだ。どこまで計算高いヤツなんだ〜(怒)。
 ところが、アピールされた側の飼い主さんは、総じて優しい。「ルーシー、そんなに甘えてくれるの?可愛いねぇ〜♪」と13キロの体で飛びつかれても、飛びつきチューをされても(こっちはリードは抑えてるんですけど、ルーシーは隙あらば、相手の唇を狙っている)撫でてくれる。本人は尻尾を打ち振り、地団駄を踏み、鼻を鳴らす。「貴女が好きです〜♪」とラブコールしているように見えるが、それだけではない。「おやつ!おやつ!」と訴えているのだ。
 「可愛いね〜♪おやつ、あげようか?」と、相手がポケットやバッグに手を入れたらシメタもの。ルーシーは飛びつきを止めて、オスワリをして舌舐めずり。
 「いえいえ、ありがたいんですが、そうするとコイツの思うツボなんで。それに一回与えたら、キリがないですよ」
 (あ)は、もらう気マンマンのルーシーの背後に立ち、丁重に断る。「あ〜、そう?」と、相手は手を止める。中には「一旦出したから」と下さる人もいるけれど。
 そういう事を繰り返していたら、ルーシーは、こちらが何か言ってることに気が付いたらしい。自分の背後で(あ)が何か言うと、おやつが出てきたり、引っ込んだり。頭は、おやつの事でいっぱいだと思っていたのだけど、意外と冷静に観察していたらしい。
 昨日、久しぶりに、あるワンちゃんとママさんに出会う。例により、熱烈歓迎モードのルーシー。おやつを出そうと、ママさんがバッグを探り始めると、ルーシーは舌舐めずりをしながらオスワリ。ところが、そうしながらチラリとこちらを一瞥。その目は
 「アンタ、また余計な事、言わんといてや」と語っていた。
 こちらが、思わず笑ってしまい、断るのを忘れていると、ママさんは探った手を出して「あ〜、ゴメン!今日はおやつを忘れてきたわ。」
 するとルーシーは「なんでやねん!!!」と飛びついていた。