かくも罪深き我ら

 TVのドキュメンタリー番組(BBC作成・再放送)で、イギリスのドッグショー、ブリーダー、ケンネルクラブについて報じられていた。つまり純血種に関する話である。
 世の中で純血種といわれる犬種には、多かれ少なかれ、それぞれ遺伝性の疾患があるようだ。ボーダーコリーだけではないらしい。むちゃなブリーディングを防ぐため、ケンネルクラブは純血種の維持・保存を目的に設立された歴史のある組織である。
 ところが、ブリーディングの世界では、高尚な目的と全く相容れない慣例がまかり通っている。
 年一回ケンネルクラブが主催するドッグショーで入賞した犬が、遺伝病があるにもかかわらず、交配され子犬が市場に出回っている。その事実を指摘されても、ブリーダーは罪悪感の表情を浮かべるどころか全く意に介さない。ケンネルクラブのトップはブリーダーで、近親交配したことがあることを認めたが、その事をインタビュアーに突っ込まれると、自分はすべての犬種やブリーディングについて一番知っている人間だから、他からとやかく言われたくないと一蹴。
 ローデシアン・リッジバックという犬種は、背筋に一筋のたてがみが生えているのが特徴らしいのだが、20匹に1匹の割合でたてがみがない子が生まれる。たてがみのある子には脊椎破裂や類皮嚢種などの疾患を抱えるケースが多いそうだが、リッジのない子には、これらの病気は発生しない。ところが、ブリーダーは、リッジのない子を獣医に連れて行き安楽死させるそうだ。
 「近頃の若い獣医は融通がきかなくて安楽死を拒否するので困っています。『リッジがないだけで、他はどこも悪くない』なんて言うんですね。『この犬種はリッジがないといけないの』と説明するんですけど、聞き入れてくれません。で、結局つきあいの長い獣医のところへ連れて行って安楽死させることになるんです。私の管理の下で静かに死なせたいんです。問題視して騒ぎ立てる人には任せられません。」(以上、TVのセリフをそのまま引用。コイツ呪ってやる)
 可哀想なボクサーは遺伝による病気を抱え、度々テンカン発作を起こす。その度に飼い主さんが暴れる犬を押さえつけ、発作が収まるのを待つ。さぞ辛いだろうと思う。その姿と苦しそうな鳴き声は、関係のない(あ)でも見ていて辛かった。
 「犬のプロ」を自負する人達が、一番人間性に欠けるという皮肉な事実に愕然とした。世の中に健康な犬を出すことが、彼らの使命ではないのか?彼らにとって、たてがみがある犬を世の中に出すことと、遺伝病のない子を世の中に出すことと、どちらが自分達に課せられた社会的・倫理的・道理的な責任を果たすことになるんだろう?それどころか、健康面で問題がないのに単に犬種標準に合わないからと犬を安楽死させたり、遺伝病を知った上で交配させたり、近親交配させたり、犬種標準を変えることに反対したり。
 何様のつもりなんだ?オマエ達は!
 イギリスで番組が放送された後、かなりの反響があり、ケンネルクラブは犬種標準を一部改定し「暫定版」なるものを作成したらしい。しかし、現在登録されている犬達の遺伝子は10%も多様性が失われているそうだ。つまり、血統図では近親でなくても、遺伝子では近親になりつつあるということ。ケンネルクラブが純血種の維持・保存こそ自分達の使命だというのに、この問題を無視できるのか?そして無視する間、どれだけ多くの犬が遺伝病に苦しみ、どれだけ多くの飼い主達が辛い思いをしなければならないのだろうか?
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/090529.html
 何事も、多くの人々が事実を知り、関心を持つことから始めないといけないのかも。
 そして、日本では来月、あるドキュメンタリー映画が公開される。こちらは、ドッグショーや自称「犬のプロ」や純血種の話ではなく、(あ)のような普通の人間達と犬や猫の話である。TV番組を見て、かなり凹んだところだけど(笑)、まずは自分達が関心を持つこと。それが第一歩だと感じている。
http://www.inunekoningen.com/