暗示

 新しいダンスの練習を始めて約1ヶ月。一日最低一回は部分的にでも練習して、ルーシーには、練習することが当たり前の日課だと思わせようと努めてきた。ズンドコだったルーシーの動機も上がり局面だったので、ある意味では正解だった。1日3食(胃酸過多体質のため)の2回目のドッグフードをメインに使っているから、ルーシーには「やらないとゴハン抜きかも」という危機感が多少はあるかな?それでも、先週くらいから問題が出てきた。
 本番を前に本人が飽きてしまったのだ。構成を作った段階から「ここは苦手だろうなぁ〜」と思ったところは、やはり苦手のまま(苦笑)。だから練習は必要なんだけど、何回も同じ事をやらされるのが嫌らしい。その部分にくると、横を向いて露骨に「またかよ!」とタメイキをつくことも。
 大げさに褒めたり、褒め方を変えたり、スカしたり、時には遊びを間に挟んだり、考えつく限りあらゆる方法を採ってきたけど、生来の性格である「飽き性」を克服するのは難しい。遊びを挟むと、後でダンスに戻した時に「え〜?練習は終わりじゃないの?」と不満そうな顔をするし。そこで、最初はフード以外のおやつを出していたのだが、そんな時ルーシーは「待ってました!」と舌なめずり。なんだかヤツの術中にハマッてしまった気がするし、何よりも(あ)個人の努力でルーシーをやる気にさせている訳じゃない。
 練習を休みにしたこともある。一日中大雨が降り、足の調子が良くなかったから。だけど、翌日に練習を再開したら、コマンドへの反応は鈍いし、何よりメチャメチャ不満そうだった。ルーシーの場合は、どうやら毎日コツコツ続けないとダメみたいだ。毎日コツコツやらないとダメなクセに飽き性。この矛盾をどう解消したら良いんだろう?
 ある日、いつもよりも一生懸命バックをしたので、練習中に大げさに褒めた。夜になって、まったりとマッサージをしながら、ルーシーに落ち着いた優しい声で話しかけた。「ルーシー、バック、頑張ったね」「バック、上手」すると、ルーシーは顔を上げてヘラヘラと笑ってみせた。
 で、その翌日―――。
バックのコマンドを出した途端、ルーシーは「アウッ!」と気合いの一声を上げて、ザザザ〜〜っと後ろに下がったのである。犬に暗示をかけられるのか?暗示をかけて苦手を克服か?いや、ヤツはネムネム状態だったから催眠学習かも。
予想外な変化に本人が一番驚いた。大げさにルーシーを褒めちぎって、その夜もまた同じ事を繰り返した。
 こうなったら暗示だろうが、催眠学習だろうが、やってやろうじゃん!!
克服できたら、みんなに報告しよう。
もしかして、ドッグスポーツにおける画期的な発見か?

(あ)の期待は最高に膨らんでいた。
 ―――翌々日。ワクワクしながらバックのコマンドを出したところ、あろうことか、ルーシーは横を向いて「ケッ」と言った←本当に言ったんだってば(笑)。
 やっぱり、そう簡単にはいかないもんですな〜。その日の体調や環境によって、やる気に波があって、波の下と上だったとそれだけだったのかも。今度はシャークボーンを紐で吊してルーシーの前でブラブラさせて「オマエはルーシーじゃない。」「ダンスが踊りたくてたまらなくなる〜」と言ってやろうかと思っている。