やっちまった・・・

 ついに、やっちまった。本番直前でタイミングとしては最悪。大失敗かも。リカバーできるかなぁ。考えるだけで心臓が痛い。
 今日の練習は最低の出来だった。暑かったこともあるが、何よりもルーシーがサボるのだ。指示に直ぐに従わなかったり、よしんば従っても手抜きをしたり。果てはターンの指示で座り込んでしまったり。足が痛いのかと思ったが、この程度の練習で傷めるはずがない。現に休憩をかねてボールを投げたら元気に走り回っていた。完全にルーシーのワガママである。
 ルーシーの動機がようやく上がってきたところだったから、これまでは可能な限り叱るのを避けていた。ワガママを言い出す前に練習を切り上げたり、ドッグフードではなく美味しいおやつを使ったり。ところが、ルーシーがルーティンに飽きてきて、自分では「踊れる」と自信をつけ始めた頃から、ワガママを言い出すようになった。あくまでルーシーの判断なので、こちらとしては、さらに練習して強化しないといけないことが多かったのだが。
 例えば、ルーシーは指示をしっかり聞いていないから「オスワリ、マテ」と言われているのに、その先の「ベッグ」をする。こういう兆候が進むにつれ、ひとつひとつの動作が曖昧になり、ルーシーの集中も落ちてきた。オスワリなんだかベッグなんだか、よく分からないような姿勢で場をやり過ごそうとする。部分的な強化では、オスワリ、マテ、ベッグはそれぞれできるのだ。それなのに曲が流れるとなおざり。なおざり傾向はどんどん酷くなり、それにつれて、こちらは精神的に追いつめられた。今となっては言い訳にしかならないけど。
 音楽を流して踊っている最中、苦手な技が近づくと、指示を無視したり反応が遅くなったり。音楽を止めて部分的に強化すると、その時はやる気を見せる。部分的な強化では、もらえるおやつが多いから。弱い部分がなんとかできるようになった事を確認して、曲を通じて踊ると、また同じところでつまづく。まるで部分強化に誘導しようとするような態度だ。
 思わず大声でコマンドを連呼し叫ぶ。ビビッたルーシーは一応従うけれど、今度は別の部分で手を抜く。これまで問題なかった部分にまでサボリが及び、こちらは完全にキレた。「ルーシー、ちゃんと!」「ちゃんと!」「ちゃんとだよ!!」
 ルーシーは、急にオドオドした態度でヒールするようになり(演技かもしれないが)、ターンは遅いし、ヒールの位置も必要以上に離れる。なんとか最後まで踊って練習を終えられたけれど、こちらは泣きたくなってしまった。何のための、誰のためのダンスなんだろう。
 おそらく次に踊る時、ルーシーはビクビクした態度をとるだろう。ここから上手く誘導して、ルーシーの自信を復活できるだろうか?でも、やるしかない。結果はともあれ最後までできることをする。そう決めたのだから。