ダンサーたるもの

 練習場所は、秋を迎える前あたりから取り合いになる。博物館の外壁がガラス張りなので、秋のイベントを前にダンス練習をする人が多いからだ。ダンスといっても大半は人間のダンスで、ヒップホップや社交ダンス、日本舞踊や太極拳(かな?)まである。秋が終わり冬を前にして、この場所に集まる人間は減ってきているけれど、最後まで粘っているグループがある。自転車の曲乗りグループと我らである。両方とも屋内で練習するのが難しいからね(笑)。
 自転車の曲乗り(何か他の名称があると思うけど、おばさんには分からん)グループは、若い兄ちゃん達だ。音楽をかけてルーシーと練習していると、背後で物音が聞こえる。始めはルーシーもいちいち驚いたり、視線を送ったりしていたが、少しずつ慣れてきた。それでも集中力を保つのは難しい。中でも気になるのはブレーキ音。ブレーキをかけて後輪を持ち上げて静止ポーズを取る等、この芸にはブレーキをかける技が多いようだ。「周囲に注意を逸らす物がある事は良いことだ。集中力を高める練習になるのだ。」と自分に言いきかせて練習している。
 昨日は少し遅めに家を出たので、練習場所に着いたら、兄ちゃん達が既に練習していた。彼らの側をすり抜けて、ルーシーを連れて端の方へ向かう。これまでは、こちらが先に来ていたので気にならなかったけど、こういう時って、どうしたら良いんだろうな?
 「こんにちは。毎日精が出ますね」とか「すいません。隅を使わせてもらいます」とか声をかけるべきなのか。
 若者だったら”Hi Bro, what’s up?”とか言うんだろうか?
 それとも、ダンサー同士は、鏡に映った自分だけに集中するものなのだろうか(爆)?
 屋外でダンスすること自体がまだ恥ずかしいのに、見知らぬ他人に声をかける度胸がない。結局、無言で頭を下げながら隅に行きスタンバイ。自転車を見ないフリを決め込む。
 気温が若干高いせいか、この日のルーシーはすぐにハァハァ言い始めた。水を与えるとガブ飲み。動きにキレがなく、練習中でも集中が途切れやすい。曲の後半になると後ろ足が大きく動かず、時には棒立ち。パーツ練習をすると上手くいくところも、曲を通じて踊ると手を抜く(本犬にそのつもりはないのかもしれないが)。夏じゃあるまいし、気温が少し高いくらいでなんだよ!「ちゃんと!」「頑張れ!」のかけ声が多くなる。
 イライラが募って、自然とかける声が大きくなっていたのだろう。ルーシーも褒められることが少なくなると、やる気を失う。「これじゃ練習自体が逆効果だ。どうしよう?」。
 ふと気が付いた。音楽以外の音がしない。振り返ると、兄ちゃん達が自転車を止めて、こちらを見ていた。我らにとって自転車の曲乗り(兄ちゃん達、ゴメンよ)が珍しいのと同様に、彼らも犬と人間が(それもおばさんが)田植え踊りをしているのが珍しかったのだろう。・・・こっ恥ずかしい〜!
 尻尾を巻いて逃げたかったが、悪いイメージで練習を終わりたくなかったので「もう一回だけ頑張ろう」とルーシーに声をかけて踊る。やれやれ、なんとか1曲クリアして褒めちぎる。
 「ダンサーたるもの見られてナンボ」と聞くけれど、私らのはダンスのレベルじゃないからなぁ。
 あぁ、いつまで経っても人に見られるのは慣れないなぁ。どうしたもんかいな。