雨と噛み合わないワシら

 3日間も雨続きで一緒に歩くだけの散歩もままならない。一日目は「大丈夫そうだ」とルーシーにTシャツを着せただけで散歩していたら、公園に着いた途端に土砂降り。人犬ともにずぶ濡れ。慌てて家に戻るも、自宅近くまで来たら雨が小降りに。かと言って、濡れたまま散歩続行という気分にもならない。足早に家に戻る。運動した後の疲労もなければ、満足感もない。フラストレーションだけが募ってしまったようだ。タオルで体をゴシゴシ拭くと、ルーシーはいつもより盛大に唸っていた。ハイハイ、私が悪うござんした。
 翌日は、前日の教訓を基にレインコートをバッチリ着用させて家を出た。排泄を終えた頃に雨がパラパラ。思わず「あ、降ってきた」とつぶやいたら、ルーシーは一目散に家に帰ろうとする。昨日も運動していないからと、親心でレインコートを着せたんだから、もう少し歩いたら良いじゃん。家に帰ったら頭くらいは拭いてやるのに。それでも本人はやたらと帰りたがる。「後で文句言うなよ。」と言いきかせて、家に戻る。その後は雨が止まず。散歩時間:わずか20分。
 で、今日はレインコートをバッチリ着用させ「雨が降っても歩くんだかんね」と鼻息荒く外に出る。良い調子でジョギングロードを歩き公園まで行くと、パラパラと霰が降ってきた。ルーシーにとって、雨で濡れるのは許せないけど、霰は気にならないらしい。それとも家から離れてしまっていたから、開き直ったのかな。
ルーシーは、芝生の広場に着いたら、やたらとこちらの顔を見る。「・・・で?」。
 「で?」って言われてもなぁ。雨が止んで霰になったからといって直ぐにディスクで遊べない。地盤が緩んでいるだろうからね。土に含まれた水分が、ある程度、抜けるまで待たないと。ルーシーも、もうすぐ5歳なんだから、それなりの配慮が必要なのだ。誰もいないのを確認してリードを離す。「ワンワワンしておいで」と声をかける。
 昔は「ワンワワン」と言われたら、独りで嬉しそうに走り回っていた。いかにもガス抜きという感じで、何の目標もなくダダダダ〜と走り回り、仕上げは自分の尻尾を追いかけてグルグル回る。最近は「ワンワワンしておいで」と言われても、地面のニオイを嗅いだり、No.1をしたりするくらいで、あまり走り回ることがなくなった。視界の端っこに、こちらの姿を確認しながらフラフラと散策に出るという感じ。
 ルーシーがニオイを嗅いでいる間に、立木の後ろに隠れてやろうか?姿が見えなくなったら焦って走るかな?抜き足差し足で立木へ移動していると、辿り着く前に、ルーシーが「何してるの?」と追いかけてきた。「いや、別に」と答えると「フーン、ま、良いけどね」と言いながら、疑惑の眼差しでチラチラと盗み見ながらニオイ嗅ぎに戻る。全然運動にならないじゃん!
 ところが帰りに少しだけ遠回りしたら、突然リードを引っ張り始める。周囲には誰もいない。猫の姿もないのに。こちらが不思議がっている間に石の台に飛び乗る。で「ハイ、一丁上がったよ」という顔で、こちらを見る。・・・こっちは何もお願いしてませんけど。
 こちらの反応が薄いので、ルーシーは地団駄を踏んで鼻を鳴らし、キチンとオスワリして見せて「だから!!」と訴えた。
 「だからって言われてもなぁ。お母さんは頼んでないし」と言うと、ズイッと近づいて「何やて?!」と言う。しかたがないので、とりあえずベッグの指示を出す。

 「ハイハイ、じゃ、帰ろ。」と言い、体を抱いて地面に下ろすと、自分から再び台に飛び乗る。おやつもあげたでしょ?何なのよ。
 どうやら(た)はここでルーシーと何かしているらしい。ルーシーとしては、それがしたいらしいのだが、こっちは一体何を指示したら良いのか分からない。「帰るよ!」と強めに声をかけると、ルーシーはタメイキをついて、シブシブ台から下りた。
 私らは、どうも噛み合わないねぇ。でも噛み合わないのは、お天気のせいにしておこうね。