ワンコと人間の言葉

 タイム誌等で米国のある大学からの発表が報じられた。あるボーダーコリーが、1,000を超える種類の物体について名称を理解し、これらに関する異なる指示を理解できるという。ただし、これが犬の言語理解能力の上限なのか、また物体の名称があくまで名詞であって、これらをレトリーブするという指示ではないことを、犬が実際に理解しているかどうかについては、今回の発表ではふれていない。それでも以前、ドイツの研究者は、数百種類と発表しているから、犬の言語理解能力は人間の想像以上にスゴイということになる。
 いや、スゴイですよ、確かに。
 物体の名称については、おそらくチェイサーは少なくとも『覚えている』と思う。これだけでも1,000以上になるから、スゴイ以外の何物でもない。
 ただね、犬が言語を正確に理解しているかについては、若干疑問が残りますねぇ。
 犬はーー特にボーダーコリーはーー知覚能力が高く、推測することができ、記憶力がある。人間は無意識のうちに視線や声のトーンでヒントを出していることが多い。犬はヒントを元に推測して正解を導き出すことができる動物だ。言葉ではなく、ヒントを覚えている可能性がある。
 というのもね、長年ルーシーを観察してーーこのワンちゃんと比較すること自体おこがましいんですけどねーーコイツは(あ)が出した指示の内容を正確には理解していないんじゃないかと思った訳です。
 ルーシーは「ちゃんと」「もっと」「おしい」「もうちょっと」「あぁぁ」 などの言葉を理解しているように見える。前に指示を出して、それに対するルーシーの反応が正確ではない場合、またはルーシーがした行動を継続して欲しい時に出る言葉だ。一つ一つの言葉は曖昧で抽象的だ。
 たとえば「ツイテ」と言われて、微妙に位置がズレている時、(あ)は「ちゃんと」と言う。すると、ルーシーは慌てて正しい位置に座り直す素振りを見せる。「あぁぁ」は不正解ではないにしろ、正解ではない、不完全なことをルーシーに伝える言葉だ。
 たとえば「リーブ」のコマンドを出すとしよう。これは、対象が地面に落ちている物であっても、すれ違う他の犬であっても、注意を対象から逸らして自分に向けることを指示するものだ。ところが実際には、対象が犬の場合、ルーシーが注意を逸らすまでの時間が長い。ジロリンと視線を外さず、ゆっくりと首をこちらに向ける(笑)。そこで、こちらが「あぁぁ」と言うと、ハッとした表情でルーシーは急いでこちらを見るのだ。
 今でも「ちゃんと」の言葉を教えた時のことをはっきり覚えている。(あ)はいい加減にツイテを教えてきたので、これを矯正していた時のこと。何回やっても、いいかげんな位置に座ったルーシーを見て、(あ)は思わず「ルーシー!ちゃんと!」と声をかけてしまった。言った瞬間に自分でも「犬に『ちゃんと』って、分かるわけないやん!」と思った。ところが、ルーシーは「ちゃんとツイテしてますやんか!」とばかりに背筋をピンとして座り直した。予想外の反応に吹き出したところ、本犬は「ウケた!コレや!」と思ったらしい。実際「ちゃんと」と言われても、ルーシーが座る場所はまちまち(涙)。もしかしたら「ちゃんと=座り直す」ことと思ってるのかも。ホントに「ちゃんと」の意味を理解しているかどうかは甚だ疑問である。
 お気づきのとおり、これらの言葉は本来必要のないもの。ルーシーが正確or直ぐに理解して指示に従えば、言われなくて良いはずの言葉なのだ。犬に自分の左側にある特定の位置に行かせるのであれば、ツイテで充分なはずだから。
 このような(あ)言語に最近「ホントにそれで良いの?」が加わった。極力ルーシー自身に考えて欲しいから、正解か不正解か、完全か不完全かを示すヒントを出さない声かけをしようと思ったからなんだけど。
 ・・・やっぱ、本末転倒だわな(笑)。

↓タイム誌の記事
http://newsfeed.time.com/2011/01/05/chaser-the-border-collie-the-smartest-dog-in-the-world/

↓今回の発表に関する研究者のデモ動画

デモでは、3種類のオモチャの名称(名詞:"Lamb(羊)""Lips(唇)""ABC(サイコロ)")と3つの命令(動詞:"take(持ってくる)""nose(鼻でさわる)""paw(足でさわる)")を組み合わせて指示を出しています。白いカーテンが邪魔だなぁ・・・。