雨の晩のこと。ルーシーとボールで遊んでいたところ、ルーシーの爪が手に当たった。本犬は、ボールをこちらの手の中に入れるつもりだったらしい。なぜか手に入れる瞬間にバウの姿勢をとった。前足がこちらの手の平の皮膚が柔らかいところに当たり、まるで彫刻刀で彫ったかのように薄皮がペロリとめくれてしまった。これは全くのアクシデントである。
 こちらは予期していなかったため、思わず「痛い!」と声が出た。その瞬間、ルーシーはあわてふためいて「ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!」と必死で謝った。
 確信犯の犯行の場合と違い、アクシデントでは(あ)は全く叱らない。一方のルーシーは平身低頭。目を合わせないようにしながら近づいてきて、流血を確認するや、床にお腹を出して謝る。
 確信犯の犯行の時も同じくらい真剣に反省して欲しいけれど、大抵、頭が高いんだよな。ブツブツ。

 少々爪が当たったくらいで傷ができるなんて、初めてじゃないかしら?

 ふと爪のことが気になった。

 オスワリをしている後ろ足。ゴザの上で甲が少々浮いているように見えた。

 爪が伸びてきたんだ・・・。

 実は、これまで狼爪以外にルーシーの爪を切ったことはなかった。毎日の運動だけで爪は削れていたからだ。それも、どちらかというと深爪に近い状態。水遊びの後に、陸上で軽く運動させたら出血したこともあった。この時は、水に入っている間に爪がふやけてしまい傷つきやすくなっていたからだけど。

 8歳になって爪が伸びてきたというのは、ちょいと新鮮な驚きだった。
 その一方で「運動量が減ったのだなぁ」と、しみじみ思う。第一、思い切り走らせることがなくなったからね。

 そのうち定期的に爪切りもしなくちゃいけなくなるんだろうなぁ。

 消毒液をつけた時のじんわりとした痛みが、心なしか、いつもより長く続いた気がした。