耳掃除

 ルーシーは歯磨きが大好きだが、耳掃除が大嫌いである。
 白目が充血し始め、眠くてたまらない時でも、ルーシーは歯ブラシを見たら、きちんとお座りして舌なめずりをする。犬用の歯磨きペーストは、それほど美味しいのだろうか?ブラシが歯に当たる前に、長い舌を伸ばして舐めようとする。ペーストにだってカロリーはあるのだから、追加できない。ルーシーの舌が舐め取る前に、ブラッシングをする必要がある。かくして、ブラシをシャカシャカと、かなりの高速で動かすことになる。たびたびブラシを噛んで離そうとしないので、そういう時は手で口をこじあける。相手も獲物を取られまいと必死だ。こちらの手を噛むこともある。という訳で、こちらは手で目隠しをして対抗する。「ハイ、終わり」と言うと、ルーシーは未練がましく歯ブラシを見つめ、時に足で「もう少し」と催促する。
 ところが、こうした歯ブラシに対する情熱は、決して耳掃除に傾けられることはない。耳をさわられた途端、白目を剥いて「さては耳掃除か?」とばかりに警戒する。綿棒を見た瞬間に、疑惑は確信に変わる。人の背後に入り込み、できるだけ体を小さく固くしている。「アッシはいませんぜ。」「アッシは犬の銅像ですぜ。」というつもりらしい。
 こちらがルーシーの体を仰向けにして、手を使って外耳を広げようとすると、あちらは前足、後ろ足、歯を総動員して抵抗する。なんとか洗浄液を2,3滴ほど外耳に入れ、耳を引っ張りながら綿棒で汚れを取る。ルーシーが急に動いて、綿棒が耳の中を傷つけてはいけないので、こちらも必死だ。いつだったか、ふと我に返ると、ルーシーの腹部に自分の足を「カニばさみ」にし、鼻面を片手で押さえていたこともある。ルーシーはといえば、体をエビぞりながら「助けてぇ」とばかりに空中で前足をジタバタさせていた。

 汚れを液体で内耳壁から浮かせて、これを綿棒で拭き取ったら、水分が残らないように、パウダーを入れて、さらに拭き取る。一連の作業が終わっても、ルーシーは耳をさわられた不快感から逃れられないらしい。前足で耳をかき、地面に頭を何回もこすりつける。

 人間の子供は、お母さんの膝枕で耳かきをしてもらっている間に寝てしまうこともある。しかし、犬の大半は耳掃除が嫌いらしい。敏感な部分を他人が自由にさわるのは、許せないのかも。では、耳と口と、どう違うというのだろう?
 

耳掃除が終わって、歯磨きを催促。