持って来ない

 多くのボーダーコリーは、ボール遊びやフリスビーが大好きである。飼い主さんが投げたフリスビーを追って全力疾走するボーダーの姿は、公園やドッグランでもよく見られる光景だ。ルーシーとて、動く物を追いかけるのは大好きだ。ただし、捕まえた物を飼い主まで届けるかどうかは、本人の気分による。
 はじめは、「公園という場所が悪いのだ」と思っていた。不特定多数のワンちゃんや人間が行き来し、自分が拾い食いができる場所では、ボールやフリスビーなぞ、大した刺激ではない。追いかけている間に、ボールやフリスビーの存在は、地面に落ちている食べ物や木の枝、小学生の嬌声、他のワンちゃんの鳴き声にすり替わってしまう。子犬だから記憶力や集中力が足りず、前の瞬間まで自分が何をしていたのかを忘れてしまうのだと思っていた。
 ところが、家でボール遊びをしても、結果は同じだった。当然、ルーシーが走る距離は短いし、周囲の刺激もゼロに等しい。だから動く物に追いついて、口で捕らえることは簡単だ。ところが、こちらに持って来ないのだ。こちらは、持ってきたら盛大に褒めてやろうと用意しているのに。
 よしんば持ってきても、(あ)の2,3歩手前で止まり、口にくわえたままで、上目遣いでこちらの様子を見ている。こちらがボールを取ろうと手を伸ばした瞬間、ルーシーは獲物をくわえて別の場所へと行ってしまう。そして見せびらかすように、ボールやフリスビーを地面に置いて、こちらの出方を見ている。つまり、「持って来い」は、いつのまにか「追いかけっこ」になってしまうのだ。
 U先生は「獲物を持ってきたら、一緒に引っ張り合いをして遊んであげなさい。そうすれば、飼い主の手元まで届けたら、遊んでもらえることが分かるから。」と仰った。ルーシーは普段から引っ張り合いが大好きで、スッポンのように獲物に食いつき、離そうとしない。興奮のあまり、ガウガウ言ってしまうほどだ。それでも、ボールやフリスビーを手元まで届けることは非常に少ない。
 しょうがないので、ご褒美まで出して名前を呼んでみるけれど、効果は少ない。ルーシーは、遊びの中で自分が先導権を執りたいと思っているからだ。これも権勢欲の表れのひとつなのだろう。・・・どうでも良いけど、(あ)は走りたくないぞ。一人で走ってくれ。
スト決行中