沼コンビ、ふたたび

 クロちゃんのお母さんは、仕事のない日は犬のために1日を使う、心優しい飼い主さんである。車を運転して、近隣の大きな公園へとクロちゃんを連れて行き、遊ばせているという。一日の中で午前、午後に訪れる公園は替えることもしばしばだとか。F田公園もそのひとつだが、ここへ来る理由のひとつは「ルーシーと遊ばせたいから」と仰ってくださった。本当にありがたいことである。
 もはや自他および飼い主が認める「取っ組み合いバカ一代」となったルーシーだが、思い切り、好きなだけ遊べる相手というのは少ない。クロちゃんのような、遊び上手でスタミナのあるお友達は本当に貴重である。
 難点をいえば、クロちゃんは非常に気の多いワンちゃんであること。去勢手術はすでに終わっているものの、メス犬が来たとなれば、黙って見過ごすことができないのだ。

 今日も、さくらちゃんが後から公園へとやって来て、ルーシーとクロちゃんのレスリングは、3匹の追いかけっこになった。始めは、公園の芝生が広がる丘陵の上の方で走っていたのだが、ダントツのスピードを誇るさくらちゃんは、クロちゃんを誘いながら、丘陵を下り、沼の方向に矢のように一直線。あっという間に二匹の姿は、(あ)の視界から消えてしまった。
 沼には単に泥が堆積しているだけではなく、温泉に似た成分が含まれているらしく、水で洗っただけでは汚れや臭いは落ちない。さくらちゃんとクロちゃんは、夏にも一回、この沼に突撃してドロドロになった。
 ルーシーを必死に呼び戻したが、全く反応がない。「ついにやっちまったか!」と思った次の瞬間、ルーシーが植え込みの中から出てきた。ところが呼び戻しが成功した訳ではなく、さくらちゃんのお母さんが「さくら!おやつだよ!」と呼んだ声に反応しただけで、例のごとく、あちらのお母さんに飛びついていた。なんちゅー現金な奴。
 ルーシーはスピードでかなわないと思ったら、それ以上追いかけるのを止めてしまうクセがある。また、近道や回り道をしたりして、ズルをする。どうやら、今回も二匹に置いてきぼりを食って(ついて行けないとあきらめて)、そこに「おやつ」の声が聞こえたらしい。
 先頭の二匹はやはり沼へ行ってしまったようだ。夏よりもマシだが、それでも足が濡れていた。今日はお互いにシャンプーをしないといけないだろう。しかし、(あ)の心に残ったのは、公園を去る時の飼い主さん二人の言葉である。「また、遊んでね」「またねー」
 普通なら「ウチのは本当に飼い主の言うことをきかない」と自分の犬のグチや、「○○ちゃんと一緒だと、いっつもこうなる」と恨み言が出るだろうが、お二人は、シャンプーの手間よりも、自分の犬が楽しい時間を過ごせたことを喜んでおられた。(あ)は、このお二人の心境になれるだろうか?おそらくダメだろうなぁ。