格闘家への道

 ルーシーにとって、F公園に行く一番の楽しみは、他のワンちゃんと取っ組み合いをすることである。対戦相手には、フライ級からヘビー級、スピード・ランナーから噛み合い一筋のワンちゃんまで、さまざまなワンちゃんがいる。ということは、ルーシーは異種格闘技が得意なのかもしれない。
 追いかけっこや噛み合いなど、相手の得意なスタイルで応戦する。背中の毛が少し立って、相手の動きを見ながら右に左にフットワークを効かせ、時にはフェイントをかけたり、真正面から取っ組み合ったりしている。本人にとって、勝ち負けはあまり関係はないらしく、ひっくり返って芝生だらけになっても、顔が相手のヨダレだらけになっても、顔の表情は生き生きしている。
 それでも、自分が近づこうとしたところ、先制攻撃で「来るな!」と吠えられると弱い。耳を後ろに倒して側をウロウロ歩き、地面に伏せて「どうしてもダメ?」と上目遣いに相手を見る。相手がすげない態度を続ける場合には、「ま、良いか」とあきらめて、次のワンちゃんに対戦を申し込む。懲りない性分なのだろう。 
 ただし、こんなルーシーでも対戦をためらう相手はいる。45キロ超級とスーパーフライ級である。54キロという堂々たる体格のバーニーズ・マウンテン・ドッグに出会った時は、さすがに尻尾が下がっていた。「お母さん、これ犬なの?」と、(あ)の方を振り返る。こちらが「ルーシー、挨拶したら?」と言うと、「今日は、これくらいにしといたる」とワンちゃんを避けて、飼い主さんの方に甘えに行った。
 また、体重が2キロもないという、生後4ヶ月のミニチュア・ダックスフンドと出会った時も、とまどいの表情を見せた。相手はルーシーよりもさらに若いとあって、興味津々で誘ってくるが、ルーシーにとっては「ネズミ」にしか見えなかったようだ。少しばかり相手の臭いを嗅ぎ、2,3歩下がって(あ)の後ろから相手を観察していた。
 先日S公園で43キロのゴールデン、ジョー君と出会った時、ルーシーは「遊ぼう」と誘った。ところが、ジョー君は、テニス・コートのフェンスと生け垣の間に落ちていたボールを拾いに行き、生け垣に埋まって動けなくなった。ルーシーはと言えば、遊んでもらえないフラストレーションからか、その場で尻尾追いを始めてしまった。
 慌てて飼い主さんと知り合いの方がジョー君の救出に行く。なんとか生け垣から脱出したところ、ジョー君の口には真っ黒になったテニス・ボールがくわえられており、本人も得意げな表情を浮かべていた。どうやらルーシーに良いところを見せたかったらしい。残念ながら、すぐに飼い主さんが「ジョー君、そんな汚いボール、やめて!」と取り上げ、ボールはくずかごへ捨てられたけれど。
 シツケ教室で「犬の社会化」は重要と習い、実践してきたつもりだが、どうもルーシーを格闘家として養成してしまった気がする。いろいろなワンちゃんと仲良くできて、一緒に楽しく遊べ、人間も好きであって欲しい。そう願ってやってきたが、これで良かったんだろうか?一応、女の子なんだけど。