マロくんは、最近この地区に引っ越して来たバーニーズ・マウンテン・ドッグである。名前は公家のような眉から来ているようだ。バーニーズといえば、先輩に54キロのレオン君がいるが、事情があって、F公園で出会うチャンスが減ってしまっている。二匹が近日中に会える日がくれば良いなぁと思っている。
 マロくんは34キロ。バーニーズとしては小柄である。「ゴールデン・レトリバーよりも、小さいことがあるんです」と、飼い主さん。確かにジョー君よりも小さいなぁ。飼い主さんは若い小柄な女性なので、失礼ながら「この細腕でバーニーズのパワーに対抗できるのかしら?」と思ってしまう。しかし、マロくんの態度を見ると、そんな不安も無駄だったことが分かる。
 3歳という年齢にかかわらず、マロくんの動きには子犬の可愛らしさがある。ルーシーに比べると随分体は大きいが、これを上下に揺らしながら走り回っている。他のワンちゃんとの遊びもうまいし、人なつこい。おやつを受け取る時も、人の手を噛まないように、そうっと舌を伸ばす。本当に優しい性格なのだ。
 ルーシーも、マロくんに追いかけっこで遊んでもらった。マロくんは、ロープ付きのボールをくわえて、相手を誘う。得意げに走り回る姿を見ると「わーい、わーい。ボクんだもん」と、声が聞こえてきそうだ。
 ルーシーがマロくんに追いついて、二匹はボールをそっちのけで、地面にひっくり返って取っ組み合いを始めた。すると、マロくんのお姉さんは「マロ!優しくね」と声をかけてくださった。すると、マロくんは素直に指示に従い、優しい態度でルーシーに接してくれた。(あ)は感動する一方で、「ルーシーは、こんな指示を出したとしても、聞いてくれないだろうなぁ」「マロくん、ガブッといってくれて良いのに」などと考えていた。

 この公園に来るワンちゃんは、性格が良い上に、よくしつけられているので、(あ)はルーシーが遊んでもらえる場合、安心して見ていられる。そして、ルーシーは子犬の特権を最大限に利用して、相手に甘え放題でここまできた。その癖が抜けないのか、10キロを超えた今でも、相手にその気がないのに、図に乗って、しつこく遊びに誘う場面が見られるようになった。「1回は相手にガンと怒ってもらって、ルーシーに反省させた方が良いかも」と思うほどだ。また「犬をあまり自由にさせすぎてはいけない」というアドバイスもいただいている。
 しかし、今日は戻ってきたルーシーの顔を見て、(あ)は苦笑するしかなかった。マロくんのヨダレでベトベトになりながら、ルーシーは満面の笑みで「お母さん、楽しかったー!!」と、報告している。(あ)や(た)とボール遊びやフリスビーをする時、こんな笑顔を浮かべることはない。そう考えると、もう少しだけ、ルーシーに取っ組み合いをさせても良いかなと思ってしまうのだった。