要求吠え

 ルーシーが、年始明けから要求吠えをするようになった。これまで(あ)は、ルーシーが吠えても、排泄以外の場合には無視をするようにしてきた。今日は、(あ)が洗濯物を庭に干そうと、裏口のドアを出たところ、吠え始めた。「どこか行くの?」「私も行く」と言っているのだろう。
 (あ)は買い物に行く時、裏口を使うことにしている。玄関から出ると、ルーシーが騒ぐからだ。特に車を使うときは、ガレージの扉を開ける音で、ルーシーはヒイヒイと声を上げる。相手に自分が外出することを気取られないように、化粧も着替えることもしない。家の鍵がジャラジャラと鳴ったら、バレてしまうので、そっとポケットの奥にしのばせ、手袋をした手で握りしめる。ガレージの扉は、ルーシーが朝の散歩に出ている間に、開けてしまっている。忍び足で車に近づき、ドアを開けて、袋を中に放り込み、急ぎエンジンをかけて、相手が「ワン」と言う前に出てしまう。なんで、こんなに気を遣わないといけないのだろう?やれやれ。
 それでも、どうやらルーシーは(あ)が裏口から外出することを覚えてしまったようで、家の外を掃除する時も、洗濯用のホースを引き込む時も、(あ)が裏口のドアから出入りする度に、吠えるようになった。
 これは(た)のせいでもある。(た)は、ルーシーが鳴くと、顔を見せてしまう。彼にしたら、必ずしも要求に従うつもりはないのだが、一体ルーシーが何を要求しているのかを知ろうとするために、そして「ダメでしょ」と注意するために、顔を見せてしまうのだ。自分の要求は通らないまでも、無視はされないと分かると、ルーシーは(た)が家にいる時に限って、吠えるようになった。(た)は、甘えられていると思っていて、嬉しそうだけど。
 だからと言って、「知らん顔を決め込む」という(あ)の対処方法が、必ずしも正しいとは言えない。無視ばかりしていると、相手が逆ギレするようになり、壁紙だけでなく、コンクリートまで食べられてしまう。このタイミングがなかなか難しい。
 ま、(た)の仕事も始まったし、ルーシーも「(あ)には、吠えても無駄だ」と分かってくれるかなぁ?